~全国初! 鉄道営業線内で「遠隔自動飛行」に成功~ 「鉄道の線路点検×スマートドローン」災害時初動対応等を見据えた技術実証実験
導入事例:神戸電鉄様・神鉄コミュニティサービス様・旭テクノロジー様
今回使用したドローン「DJI Matrice 300 RTK」※旭テクノロジー様が機体提供、飛行管理(スマートドローンアタッチメント未搭載)
「DJI Matrice 300 RTK」のネットワークRTK機能を使用することにより、誤差センチメートル級という精度の高い位置測位が可能。機体のスペックは最大飛行時間は55分、耐風性能は12m/s、保護等級はIP45(スマートドローンアタッチメント未搭載時の公表数値)と運用しやすい機体です。搭載するカメラは用途に合わせて交換可能で、本実証ではカメラ「DJI Zenmuse H20T」と、夜間飛行ではサーチライト「Wingsland Z14 Tatical Spotlight for M210 & M300」を搭載。今回は、「スマートドローンアタッチメント」を装備して、auモバイル通信に対応した初めての事例となります。
今回使用した4G LTE通信デバイス「スマートドローンアタッチメント」
「スマートドローンアタッチメント」は、4G LTE通信機能を備えた300g以下の小型・軽量のモバイル通信デバイスです。既存の産業用ドローンに取り付けて、「4G LTEパッケージ」を同時にお申し込みいただくことで、「上空でのauモバイル通信」「運航管理システム」「クラウドサービス」が利用可能となり、4G LTE通信を使用した機体の遠隔制御および自動飛行が可能です。現場での取り付け作業は10分程度。対応機種は、「DJI Matrice 300 RTK」(2024年3月末現在)。今後も「DJI Matrice 350」「DJI Matrice 30T」ほか、対応機種を拡大予定です。
追記(2024年5月13日):2024年5月13日より「4G LTEパッケージ」は「上空電波パッケージ」に名称変更となりました。
KDDIスマートドローンは、神戸電鉄グループ会社である神鉄コミュニティサービス様が2023年9月から2024年2月に神戸電鉄の車庫や線路で実施した「災害初動対応等でのモバイル通信回線を介したドローン線路直上巡回飛行の実用性検証」において、システム提供支援を行いました。
具体的には、本実証で遠隔運航オペレーションを担当した旭テクノロジー様が産業用ドローン「DJI Matrice 300 RTK」に対応した「スマートドローンアタッチメント」と、「4G LTEパッケージ(auモバイル通信、運航管理システム、クラウド)」を活用し、本実証における遠隔自動運航時の安全管理、システム操作を担いました。
本実証は、兵庫県と公益財団法人 新産業創造研究機構が推進する「令和5年度 ドローン社会実装促進実証事業」の一環として行われたもので、全国初(注1)となる鉄道営業線内でのドローンの遠隔操作および自動飛行(レベル2またはカテゴリーⅡ)に成功しました。今回は、この画期的な取組をご紹介し、「鉄道線路の安全確認×スマートドローン」の可能性についてもお伝えしたいと思います。なお本実証は、「スマートドローンアタッチメント」の商業利用第1号の事例となります。
注1:神鉄コミュニティサービス調べ
目次
実証の背景と目的 〜鉄道の線路点検、災害時初動対応を見据えて〜
昨今、大規模な自然災害が増えていますが、鉄道各社は豪雨や台風などの被災時や、悪天候により列車を運休した後、通常は徒歩での目視によって、線路をはじめ鉄道構造物の被災状況を確認し、必要に応じて倒木などの撤去や線路関連施設を復旧後、運転を再開しています。
この徒歩による目視点検は大変危険な作業で、かつ迅速性が求められることから、毎回大がかりな要員が必要となります。また、点検作業は個々の点検者の経験や知見が必要であり、要員の育成には時間を要します。しかし、社員の高齢化などに伴って点検員不足が深刻化しており、特に中小鉄道や地方鉄道における「線路保守要員の担い手不足」の問題は、神戸電鉄グループの一員として線路の検査・保守を担う神鉄コミュニティサービス様にとっても「例外ではない」と言えます。
そこで本実証は、「マンパワーに依存しない新たな線路巡回・線路点検の手法」の構築を目指して行われました。
実証内容は、操作拠点(保守業務の拠点となる場所に設置)から遠隔でドローンを操作して、線路直上で低空飛行させ、おおよそ列車運転手と同じ目線の高さから映像を撮影して、操作拠点から鉄道構造物や周辺状況を確認するというものです。
人が現地でドローンを操作するのではなく、ドローンを遠隔操作して自動飛行させ、保守拠点でリアルタイム映像を確認する、いわゆる「目視代替」としてドローンを活用する「省人化」を目的としています。
このため、事業実施主体である神鉄コミュニティサービス様、ドローン運航担当の旭テクノロジー様よりお声かけいただき、当社の「DJI Matrice 300 RTK」用に開発を進めていた「スマートドローンアタッチメント」を提供しました。
そして実際に、「auモバイル通信」「運航管理システム」「クラウドサービス」をご利用いただき、営業中の線路直上でのドローンの遠隔自動飛行および機体制御、ならびに映像伝送について、飛行速度2m/s以下で概ね問題なく実施できることを確認しました。
線路直上(建築限界内)ドローン低空飛行における3つの課題
ドローンを遠隔地から操作して線路直上で自動飛行させるにあたり、さまざまな課題がありました。
1つ目は、「磁界の影響」です。鉄道の線路は、営業中に電車が走行すると高圧架線やレールに流れる電流によって、周囲には磁束が発生します。電車が走行していないときも、常に微弱な電流が流れており、線路沿いには変電所もあります。このため、通信や機体制御への影響、映像伝送の遅延など、「磁界が及ぼす影響」は最大の検証事項でした。
2つ目は、「障害物回避」です。本実証でドローンは、線路上から2〜3mの線路直上、いわゆる建築限界内(注2)を飛行します。特に、神戸電鉄様のように最大5%の勾配がある線路直上で、線路や建築限界外にある設備に衝突することなく安全かつ安定的に飛行させることは、チャレンジングなテーマとなります。このため、ドローンに搭載されている「障害物検知機能」が、線路直上の低空飛行という特殊な環境下での実用性についても、重要な検証事項でした。
注2:建築限界とは、電車車両が走行する際に支障する範囲を指し、鉄道事業者ごとに定められた規定である。目視点検では建築限界内に障害物がないことを確認している。
3つ目は、「GNSS信号の受信状況」です。山間部などエリアによってはGNSS信号が弱まり、また、線路の上方に道路や橋が交差している場所では、ドローンの自動航行に必要な衛星捕捉数の確保ができなくなるということが懸念されました。
段階を追って進めた実証実験
このような課題がある中、線路内での飛行には十分安全に配慮しながら進める必要がありました。そこで、神鉄コミュニティサービス様が線路内作業における安全管理、旭テクノロジー様がドローンの運航管理、KDDIスマートドローンが通信提供とドローン運航管理システム運用のサポートという、それぞれ専門の立場から常に意見を交換しながら、飛行場所別に3ステップで進めました。
第1ステップは、2023年9月11日から26日に、神戸電鉄「見津車庫」内の線路上で実施しました。まず、磁束計を用いて線路上の磁束密度を計測し、線路からの高さとドローンの機体コンパスへの影響を確認し、同時に障害物検知機能の有用性も確認しました。
「線路直上2〜3メートルの高さの磁束密度は通電中でも小さく、機体コンパスに影響はない」、「飛行速度が毎秒2メートル程度の低速であれば、前方の障害物を検知できる」ということを確認したうえで、手動飛行により飛行経路の位置情報を取得し、次にモバイル通信回線を介した遠隔自動飛行を行いました。
第2ステップ(沿線のDID外エリア)は、2023年10月11日から30日に、神戸電鉄「有馬線谷上駅から有馬温泉駅」の片道約1,700メートルの線区などで、終電後の夜間に実施しました(配電線は通電状態)。主な検証項目は、「位置情報の精度」と「夜間暗所での飛行・映像取得」です。
位置情報については、線路直上という低空飛行にも関わらず、山間部も含めてGNSS信号の受信状況は良好でしたが、道路や橋などのオーバーパスがある場所では、衛星捕捉数が不足し、自動飛行は不可になりました。
位置情報の精度においては緯度経度だけではなく、急勾配の区間での「低空飛行」は、高度の精度が大きな問題となりますが、「DJI Matrice 300 RTK」のネットワークRTK機能を使用することで、一定の高度を維持し、安定飛行できることを確認しました。
また、夜間暗所での飛行と視認性についても、専用サーチライトを装備することで、機体に搭載した可視光カメラから配信される映像で機体前方40〜50メートルを十分に視認できることを確認しました。
全国初! 鉄道営業線内で「遠隔自動飛行」に成功
昼間営業線での線路上直上ドローン遠隔自動飛行は、2023年11月に神戸電鉄「市場駅」から「樫山駅」(片道約700メートル)などで実施しました。
また、2024年2月15日にはメディア向けの見学会も行いました。離陸場所は、神戸電鉄 粟生線「市場駅」に隣接する「市場保線基地」です。離陸地点から数十メートル離れたところに、仮設の「遠隔運航オペレーションルーム」を置いて、「DJI Matrice 300 RTK」を遠隔操作・自動飛行する様子をご紹介しました。
当日は、報道記者の方々が営業ダイヤの間合いに線路内に立ち入り、ドローンが線路直上約3メートルの高さを維持しながら、安定的に自動飛行する様子を取材いただきました。報道記者の方々は線路沿いに続くのり面の状況や、線路内の歩きづらさや急勾配などを体感し、災害時初動対応の危険性や苦労も実感されたようでした。
ドローンは飛行速度毎秒約1.5メートルで安定的に自動飛行しましたが、線路上空で交差する橋梁下では衛星捕捉数が不足し、自動飛行は継続できません。このため、橋梁の手前で現地パイロットの手動操縦で橋梁下を通過し、通過後改めて遠隔自動飛行に切り替えました。
2回目のデモフライトでは、KDDIスマートドローンが提供する運航管理システムを使ってドローンを遠隔操作する状態や、ドローンのカメラ映像がクラウドサーバを経由してリアルタイムに表示される様子をご紹介しました。
全国初となる鉄道営業ダイヤの間合いでの実証実験でしたが、営業列車の運行に支障なく、また、機体、通信、遠隔運航システムともに問題なく、予め設定した飛行ルートを安定して飛行できました。
「鉄道の線路点検 ✕ スマートドローン」の可能性
本実証は、線路直上でドローンを遠隔自動飛行させ「線路巡回の目視代替」として活用できるのかという全国的にも先駈け的な技術実証でしたが、本実証をきっかけに2023年7月1日、関西を中心とした私鉄10社(注3)が参加する「線路点検等でのドローン活用検討会」が設けられ、12月には検討会参加社局が集う試験飛行見学会を行うなど、新たな点検ソリューションの共創も始まりました。なお、本実証の飛行計画には、検討会での意見も反映されていたようです。
しかし、線路上空の交差橋梁下では、遠隔自動飛行ができないこと、高精度の飛行を行うために不可欠なネットワークRTKへの接続のためにドローンに帯同する要員が必要であること、また、万が一のトラブル時の対応など、これから乗り越えるべき課題も浮き彫りとなりました。
注3:線路点検等でのドローン活用検討会参加各社 – 神戸電鉄、阪神電気鉄道、京阪電気鉄道、南海電気鉄道、山陽電気鉄道、名古屋鉄道、大阪モノレール、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)他、事務局:神鉄コミュニティサービス
また、災害時初動対応だけではなく日常的な点検の代替としていかに活用していくのか、運用面での実証はまだまだこれからです。
今後も神鉄コミュニティサービス様をはじめ、「線路点検等でのドローン活用検討会」の各社の皆様の願いが叶えられるよう、KDDIスマートドローンも貢献して参りたいと思います。
本実証は、当社が2024年2月15日にレンタルサービスを開始した、モバイル通信デバイス「スマートドローンアタッチメント」の商業利用の第1号の事例にもなりました。
当社は、モバイル通信で遠隔操作できるドローンのことを「スマートドローン」と称し、ドローンの機体、通信機器、運航管理システム、クラウドサービス、運航サービスなどを開発し、「スマートドローンツールズ」として提供してきました。
本実証でもご利用いただいた「スマートドローンツールズ」は、「上空モバイル通信」「運航管理システム」「クラウドサービス」がセットになったサービスで、ドローンの遠隔操作、自動飛行、ビッグデータの保管や解析、複数拠点でのリアルタイム監視などが可能となります。
「スマートドローンアタッチメント」を用いて、既存機体をスマートドローン化して活用したいとお考えの法人様は、お気軽にこちらまでお問合せください。今後も、「DJI Matrice 350 RTK」「DJI Matrice 30T」などに対応機種を拡大していく予定です。
【お客様の声】
■神鉄コミュニケーションサービス 前田様
全国初の「営業ダイヤ間合いで試験飛行」ということで、他の鉄道事業者様からも大いに期待を寄せていただいた実証試験でしたが、決して上手く飛ばそうということではなく、あくまで鉄道事業者代表の挑戦者という立場で失敗を恐れず、エラーを洗い出すという目線で相当リスキーなことも試行してきました。途中、試行錯誤が続いた時期もありましたが、常に前向きに協力いただきました旭テクノロジー様、KDDIスマートドローン様に対し改めてお礼を申し上げます。
線路直上の磁束環境下で、遠隔自動でドローンが飛行できるのかという点が最大の関心事項でしたが、今回の実証を終えて「超低空でのドローン飛行」という新たな観点が浮き彫りになったと考えております。この観点から、急勾配線区での飛行や、より速度の高い飛行での安全性や再現性を担保するためには、汎用ドローンに標準装備されていない対地高度を照査して飛行する機能を付加するなど、運用化に向けてさらに改良・実証が必要と考えています。また、併せて、今後、鉄道業界全体として、「超低空」でのドローン利用に対応した機体の必要性を機体メーカー側に訴求していくような取り組みも重要と考えています。
4G LTE回線は全国網の通信インフラであり、本実証により、全国どこでも再現可能な活用モデルになると考えており、この実証が契機となって同様の活用例が全国で増加し、ソリューション共創の拡大に繋がれば幸いです。
■旭テクノロジー 天野様
今回の試験実施に伴い、当初計画内容を聞いた際は大変驚きました。実際の検証現場においては、営業運行をしているダイヤの合間でのドローンフライトだけに、1回の接触も絶対に起こさないことを念頭に細心の注意を払って実施しておりました。
その為、メインオペレーター、サブオペレーター共にどのような状況に対しても迅速にかつ柔軟に対応が可能なオペレーションにて望みました。
一番の難関は「ルート設計」で、営業路線の傾斜がある場所のルート作成には悩まされました。ここで作成した飛行ルートをKDDIスマートドローン様のシステムにトレースすることで、今回の4G LTEを使用した自動飛行が完成になりました。
今後は、4G LTEを使用した自動飛行をはじめ他拠点同時配信の優位性を提案していこうと考えております。