ローソン店舗を「モビリティハブ」に、共同配送×ドローン配送で CO2 削減へ 〜日常と非常時を見据えたフェーズフリーの実現を〜

KDDI スマートドローンは 2025 年 1 月 27 日から 2 月 12 日、秩父市山間部において既存のローソン店舗を「モビリティハブ」として活用した共同配送とドローン配送により CO2 排出量の削減を目指す実証実験を実施しました。本実証実験は、環境省の「令和 6 年度運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業」に採択された、3 ヵ年プロジェクトの初年度の取組みとなります。今回は、本実証実験の概要、背景、取組内容と、今後の展望について、詳しくお伝えします。

使用機体:PRODRONE 社製 PD6B-Type3

本実証実験の概要と目標「CO2 排出量 6 割削減を目指す」

KDDI、KDDIスマートドローン、ローソン、一般社団法人ちちぶ結いまち、秩父市の5者によるコンソーシアムは、環境省の「令和6年度運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業」に採択され、2025年1月27日から2月12日までの平日10日間で、ローソン店舗を拠点とした共同輸配送とドローン配送によりCO2排出量削減を推進する実証実験を実施しました。本実証実験は、3ヵ年プロジェクトの初年度の取組みとなります。

5社の実施体制としては、KDDIが全体統括と衛星通信Starlinkを活用したドローンの遠隔運航管理に必要な通信環境の構築、ローソンが車両とドローンの連携地点となる「モビリティハブ」としての店舗活用、ちちぶ結いまちは秩父市内で手がけてきた共同配送事業や山間地域での持続可能な物流モデル構築などの実績を活かしたビジネスモデルの検討、秩父市は地域住民および関係者への説明を実施しました。そしてKDDIスマートドローンは、ドローン配送の社会実装に必要なビジネスモデルの検討、システム開発などを行います。

3ヵ年の目標は、ローソン店舗を「モビリティハブ」として活用した共同配送、トラック配送とドローン配送を「社会実装」して、CO2排出量を現在の6割削減するというものです。

なお、KDDIは2024年2月に、ローソン公開株式の買い付けを実施し50%を保有しており、KDDIスマートドローンも、災害・防災対応なども含めてローソンとのシナジー創出を検討してきました。今回、「わが国全体のCO2排出量の約2割を運輸部門が占めている」という事実や、「荷物をできるだけ集約し、共同配送とドローン配送で物流の効率化を図る」という手法の有効性が注目されつつあることなどから、持続可能なまちづくりに向けた社会実装性のより高いモデルを秩父市と協働して実現したいと考え、本事業に取り組んでいます。

秩父市で取り組む意義「秩父モデルの確立」

秩父市は、65歳以上の人口が20,465人で、高齢化率は35.39%(令和6年9月20日現在)と、労働人口の減少が進んでいます。交通インフラも、地域によっては市営バスが1日に数本のみの運行で、維持への懸念が年々高まっています。また、災害リスクについても、秩父市域の87%が森林で、埼玉県の森林の40%を占めている(秩父市ホームページより)ことから、特に少子高齢化が進む山間地域における対策強化が求められています。

このような課題は、日本全国の地方が抱える課題と共通していますが、そんな中で秩父市は2016年よりドローンなどの先端産業分野の育成に、積極的に取り組んできました。また、経済産業省の「デジタルライフライン全国総合整備計画」においても、秩父市はドローン航路の整備計画を進める自治体として採択されていますし、秩父市は2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を埼玉県の自治体の中でも初めて宣言しており、その取組みは非常に先進的です。

他方、2022年9月13日に発生した土砂崩落によって、中津川地内で冬季期間中に交通や物流が寸断され孤立してしまう地域住民の方が発生したときには、当社も2023年2月から3月にかけて、ドローンによる物資定期配送を実施するプロジェクトに参画しました。(当社の担当は、ドローン運航管理システムの提供と、ドローンオペレーションの支援)

こうしたさまざまな背景と経緯から、秩父市と協働して「秩父モデル」の確立を目指すことは、ドローンによる地域課題解決のモデルケースの提示になり、全国の自治体にも非常に役立つ取組みになると考えています。このため、本実証実験のエリア選定においても、平時のみならず災害時対応でもニーズの高そうな場所を優先的に選びました。

「既存施設」をモビリティハブとして活用する

本事業のユニークなポイントは、「既存施設」を活用するという点です。共同配送により物流各社の荷物を一箇所に集めて一緒に運んでいく「共同配送」や、トラック配送とドローン配送を連携した「ハイブリッド配送」は、過疎地域における物流インフラの維持、買い物支援、CO2排出量削減など、さまざまな観点で有効ですが、「ビジネス化」という観点においてはもう少し工夫が必要です。

そこで、新しく施設を構えて集約した共同配送の荷物だけを運ぶのではなく、今回はローソン店舗ですが、ほかにも道の駅やスーパーなど、既存施設を「モビリティハブ」として活用し、その施設で取り扱っている商品も一緒に購入していただき混載して運ぶことで、CO2排出量削減もさることながら、ビジネスモデルの確立にもつながると見ています。

モビリティハブとなったローソン秩父荒川上田野店から、宅配物とローソン商品を混載したドローンが離陸するところ

実際、住民の方に現在のお買い物事情を尋ねると、市営のバスを利用してまとめ買いする、ご家族が月に1〜2回訪ねてくる時に買い物に出かけるという方が多く、「ちょっと買い足しができない」など、日常の不便を抱えていることが分かりました。今回、ローソン店舗をモビリティハブとして活用して、荷物の配送と同時にお買い物もできるようになれば、「住み続ける」を叶えられ、そして平時のサービス利用が定着すれば有事の支援も円滑にできるようになるでしょう。

地域物流を維持する「ビジネスモデル成立」に向けた必須要件3つ

初年度の取組みでは、モビリティハブを拠点とする共同配送やドローン配送を実施しました。3つのポイントごとに、取組内容と成果をご紹介します。

「モビリティハブ〜山間地域」ビジネスモデル構築に向けて

本実証実験では、地域からのニーズ、既存の施設や物流網を考慮して、複数のユースケースを検討しました。ローソン秩父荒川上田野店を「モビリティハブ」として、共同配送の荷物を集約し、宅配物とローソン商品を混載して、山間地域へ配送する実証を行いました。

共同配送の荷物がローソン店舗に持ち込まれる様子
宅配物とローソン店舗の商品を混載する様子

配送ルートは3つで、ローソン秩父荒川上田野店からドローンで配送するルートが2つ、ローソンからトラックで別の施設へ運び、そこからのラストワンマイルをドローン配送するルートも試行しました。ドローンの飛行ルートとしては、片道2kmから7km、標高の高低差は約300mで、「共同配送にドローン配送を組み合わせることで、CO2排出量削減が可能である」ことを確認できました。

また、「共同配送やドローン配送のニーズがあるのはどんな地域か」という調査からニーズの確認までできたこと、「ローソン店舗で荷物を受け取り各集落へ配送するという一連のフロー」を確認できたことは、今後のビジネスモデル構築に向けて大きな成果となりました。

ドローン配送の採算性を図る「1対N運航」システム開発

ドローン配送においては、ドローンを目視外で自動飛行させるため、遠隔運航管理システムを用いるのですが、ドローン配送の社会実装を見据えるうえでは、ひとりのオペレーターが1機しか管理できないのではコストが見合わないため、「複数機を同時に遠隔運航管理して採算性を図っていくこと」が必要です。

このため本実証実験では、「1対N運航の要件定義」にも取り組みました。具体的には、「オペレーターの負担軽減」を図るための改良点を挙げ、遠隔運航管理システムの開発とも連携しながら、“オペレーター目線でのシステム改修”を検討しています。また、今年度も1対2運航は既存システムで実施をしました。

山間部ドローン遠隔運航に不可欠な「衛星通信Starlink×太陽光発電の活用」

ドローンの遠隔運航管理では、機体と遠隔運航管理システムが、モバイル通信で常時つながっている必要があります。しかし、山間部ではモバイル通信圏外になるエリアも少なくないため、本実証実験においても、上空モバイル通信エリアマップ(KDDIスマートドローン提供)を確認すると、設定した飛行ルートの一部が「モバイル通信圏外エリア」であることが分かりました。

そこで今回の実証実験期間中には、モバイル通信の圏外箇所に衛星通信Starlinkの可搬型基地局を常設してエリア化し、ローソン秩父荒川上田野店から老人福祉センター渓流荘(浦山地区)までの片道約7km・約12分の飛行も、安全に運航管理することができました。

また、Starlink可搬型基地局の電力源には太陽電池を活用して、CO2削減を意識し、再生可能エネルギーを活用した電力供給の検討を行いました。衛星通信Starlinkを活用することで、光ファイバーケーブルを引けない場所でもモバイル通信を確保できます。山間部での非常時(有事)の備えとしては、今回のような可搬型基地局と太陽電池の活用は、必須になるのではないでしょうか。

衛星通信Starlinkの可搬型基地局
Starlinkの可搬型基地局に電源を供給する太陽電池。折り曲げ可能で軽量なため、持ち運びや設置も手軽にできる

フェーズフリーの実現も視野に、日常と非常時の「安心」を叶えたい

本年度の事業を通して、「宅配物の配送をトラックとドローンによる共同配送に集約し、更に電動化を推進していくことで、CO2排出量の削減を計れる」ということが見えてきました。今後はこれと並行して、地域ニーズに即した持続可能なビジネスモデルを構築し、将来的には同様の課題を抱える全国各地に適用を目指していきたいです。

そして、秩父市におけるドローン配送の取組みは、前述した通り、土砂崩落による孤立住民向けのドローンによる物資定期配送という、非常時(有事)の取組みから始まりましたが、そのときの経験からも「災害時のときだけいきなり使おうとしても、なかなか使いこなすことは難しい」と実感しています。やはり、地域の物流や買い物弱者の課題をしっかりと把握したうえで、日常使いできるサービスを整えておくことが必要です。

本実証実験の実施期間中、住民見学に参加いただいた方にアンケートを行った結果でも、「災害時に荷物を運んだりする用途でも、ドローンを使って欲しい」という回答が大半を占めていました。今回の取組みは、CO2排出量削減を前提とするものではありますが、地域の方からのニーズも把握できたので、「フェーズフリーの実現」も視野に入れて、日常と非常時の「安心」を叶えられるビジネスモデルを構築し、社会実装を目指していきたいです。