【ドローンレーザー測量×4G LTE】だからこそ実現できる世界とは 〜「測」「量」「図」はかるプロ、アミューズワンセルフに聞く〜

KDDIスマートドローンは、上空モバイル通信を用いて、ドローン等をさまざまな用途でより便利にご利用いただくために「上空電波パッケージ」をご提供しています。今回は、4G LTEに対応したドローンとレーザースキャナを開発・販売する株式会社アミューズワンセルフの冨井天夢様に、同社の取組や新製品、「ドローンレーザー測量×4G LTE」だからこそ実現できる世界について詳しく聞きました。

「測」「量」「図」はかるプロが、ドローンを開発した理由

アミューズワンセルフは、全天候型ドローン、ハイブリッドドローンや、近赤外線レーザースキャナ、グリーンレーザースキャナなどのハードウェアと、最適基線解析クラウドをはじめとするソフトウェアを自社で開発して販売提供しています。

アミューズワンセルフは、有人ヘリ、船舶、自動車などの移動体に各種センサーを搭載し、データ取得と三次元化を行うという、「測」「量」「図」3つの“はかる”ことを生業にしてきた技術者が集まり設立された会社です。

現在のドローン開発に至った経緯はこうです。2007年に新潟県中越沖地震、2008年に岩手・宮城内陸地震が発生しました。その時、国土交通省や大手航測会社からの要請で、有人航空機にセンサーを搭載した広域測量を実施したのですが、災害現場でのニーズを知るほど、有人航空機に限界も感じたといいます。

「日本の災害の多くを占める、家の裏山が崩れるといったケースでは、有人航空機はなかなか使うことができません。被災地までの移動時間、機材数が限られる、費用が高いといった問題があるためです。無人航空機による自動飛行が必要だ、と考えるようになったと聞いています」(冨井様)

<株式会社アミューズワンセルフ 技術 冨井天夢様>

同社はこのような状況を鑑み、無人航空機、いわゆるドローンの開発を加速。2014年に発生した御嶽山の噴火時には、標高2,400mの離陸場所から1,200m上昇して標高3,600mを最遠方6.5kmの火口上空まで自動飛行するという、約45分のフライトを2日間で22回実施しました。

このとき火口周辺の3D計測以外に、3種類の調査を行いました。搭載可能重量3kgのドローンに1つめはサーマルカメラを搭載した火口部の温度計測で、マグマ爆発か、水蒸気爆発かの調査を行いました。2つめはサンプラーを搭載したエアーサンプリングで、硫黄濃度の測定を行いました。3つめは分光計を搭載した噴煙の断面計測で、噴煙の体積を推定しました。

さらには、このとき国土交通省担当者から直に聞いた、「実際の災害時は雨天が多いのに、ドローンは飛ばせないから役に立たない」という指摘を受けて、風速25m/sの風の中でも飛行可能な全天候ドローンの開発にも即座に着手。2018年の台風で関西国際空港が冠水したときには、関西国際航空株式会社や大手ゼネコンからの要請で出動し、被災状況が分かる三次元モデルとオルソ画像を作成して納品しました。

ドローンレーザー測量を「誰でもできる」に変えたクラウド

しかし測量において、可視光カメラだけでは限界があります。樹木や草むらの生い茂ったところでは、地面の形状を可視化できないためです。そこで同社は2013年、ドローン搭載型レーザースキャナシステム「TDOT」を開発しました。当初は、機体と近赤外線レーザーの一体型でしたが、2015年より他社製品にも対応し、2016年以降はDJI「Matrice600Pro」への搭載が急速に進んだといいます。

また同年、ドローンレーザー測量を「誰でもできる」に変える「最適軌跡解析クラウド」をリリースしました。これは、「TDOT」を用いた測量でスキャンしたデータをアップロードすると、機体に搭載したGNSSの位置情報と、レーザーに内蔵したIMUの姿勢情報と加速度をもとに、飛行軌跡の確からしさ計算を行うアルゴリズムを用いたクラウドサービスで、測量時にRTKを用いなくても事後解析によって±2cmの誤差範囲で飛行軌跡を得ることができます。このため、公共測量作業規定で定められている±5cmの精度を担保できるため、災害発生後の差分検知に有用であることも分かりました。

<最適軌跡解析クラウド>

続いて2017年には、計測速度を大幅に向上した「TDOT PLUS」を開発・販売。また2018年には、国土交通省からの「地上だけではなく、河川や海など水底の形状も測れないか」という相談を受けて、「革新的河川プロジェクト」でグリーンレーザーの開発も手がけたそうです。そして2019年よりグリーンレーザーの販売も開始。2021年に「TDOT3」シリーズをリリースして、DJI社のMatrice300RTKにも対応したことから国内外でこれまで100台以上が運用されているそうです。また、水上に船やボートを浮かべてそこから水中音響測深する場合、浅瀬には入れず計測できないので、ドローンに搭載したグリーンレーザー測量による水底地形3D化が非常に役立つといいます。

「豪雨災害直後」でも測量できる、グリーンレーザーの凄さ

ちなみに、通常のドローンレーザー測量で用いられる近赤外線レーザーは、波長が900ナノメートルで光が水に吸収されてしまうのに対して、グリーンレーザーは波長が530ナノメートル程度で光が水に吸収されにくいという特長があります。もちろんグリーンレーザーにも、濁度の高い水中では利用できないといった泣きどころはありますが、被災直後の雨天時や地面がまだ濡れている状態でも測量できることは、非常に大きな利点です。

また、水上に船やボートを浮かべてそこから水中音響測深する場合、侵入できない浅瀬では、ドローンに搭載したグリーンレーザー測量による水底地形3D化が非常に役立つといいます。さらに最近では、海洋構造物に付着して育った藻場分布とブルーカーボン算出などでも、注目が高まっているそうです。

「当社のグリーンレーザーは、ドローンに搭載して豪雨災害直後でも測量が可能です。熱海市伊豆山土石流災害時にも、初動の現況確認で使用されました。水中の濁りにもよりますが、河川だと水深4〜5m、海洋だと水深20mの水底も測れています」(冨井様)

<同社のグリーンレーザー「TDOT GREEN」を使用中の現場の様子>

新製品が目白押し、3つのレーザースキャナとハイブリッドドローン

まさに「ドローンレーザー測量のトップランナー」である同社ですが、2023年秋から2024年春にかけて新製品を続々とリリースしています。

まず、最新のレーザースキャナ「TDOT7」シリーズには3つの新製品があります。このうち2製品は、レーザースキャナ自体に4G LTEモジュールが搭載されているという点でも要注目です。

ドローン測量作業中に電子基準点データを得ることで、機体が取得するGNSSの位置情報をRTKとして扱えるようになるため、ここにレーザー内蔵のIMU(シングルボードコンピューター「NVIDIA Jetson XavierNX」)の情報を統合して、飛行軌跡の確からしさ計算をエッジコンピューティングしたうえで、±3〜5cm程度という精度の高い点群データをリアルタイム遠隔伝送できるのです。

新製品1つめは、近赤外線レーザースキャナの汎用モデル「TDOT7 NIR」で、4G LTE対応しています。2.4kgと超軽量なため、DJI「Matrice350RTK」に搭載し、ロングフライトも可能だそうです。視野角最大360°という広さも特徴です。

新製品2つめは、より高密度に測量できる近赤外線レーザースキャナ「TDOT7 NIR-S」です。点群の密度に直結するパルスレートは240万Hz、真下と進行方向前後にも1秒あたり400ラインものレーザーを高速照射でき、1回のレーザー照射のリターン数は最大32エコーという高性能で、2.7kgと軽量な製品です(4G LTE未対応)。

新製品3つめは、2024年3月1日にリリースした最新のグリーンレーザースキャナ「TDOT7 GREEN」で、4G LTE対応しています。水陸両用で、3.6kgと軽量、従来のグリーンレーザーと比べて測深能力や視野角も大幅にアップしました。

同社「TDOTシリーズ」は、新技術情報提供システム(NETIS)令和5年度推奨技術に選定され(番号:KK-200034-VE)ており、2024年5月22日から24日に幕張メッセで開催されるCSPI展では、大々的にお披露目する予定だそうです

「全天候型」を目指して進化中!ハイブリッドドローン
さらに、機体の新製品としては、国産エンジンを搭載したハイブリッドドローンがあります。2023年10月には官公庁関係者約380名が見守るなか、山間部DXにおける砂防施設点検の効率化を目的に、約2時間の目視外飛行と、衛星コンステレーションを活用したリアルタイム映像配信などを実施しました。

数々のマルチコプターを開発してきた同社ですが、ひときわパワフルなこのハイブリッドドローンも「全天候型」を目指し、さらに開発中とのことです。現行機種も、航続時間4時間、4G LTE対応、みちびき衛星CLAS対応など高性能ですが、雨天時にも稼働可能になれば災害時測量をはじめとするさまざまな過酷な現場でも、大活躍するのではないでしょうか。

<ハイブリッドドローン「GLOW.H」>

「ドローンレーザー測量×4G LTE」だからこそ実現できる世界がある

冨井様は、「ドローン側にもレーザー側にも、4G LTE通信モジュールを搭載しているのが、当社の特徴だ」といいます。そのメリットについて、分かりやすく話してくださいました。

「ドローン側で4G LTEを使うメリットは、4G LTEを介することで位置情報精度が向上し、何より遠方でも通信が繋がることで、機体を遠隔制御できたり、テレメトリー情報や映像を受信できるようになることです。正直なところ、リポバッテリーで20〜30分しか飛行できないドローンよりも、当社が開発を進めているハイブリッドドローンのような長時間飛行できるドローンで、活用メリットが顕著になると考えています。

レーザー側で4G LTEを使うメリットは、当社製品に限った話にはなりますが、やはりドローン測量作業中にリアルタイム解析を行い、精度の高い位置情報を持つ点群データをリアルタイム遠隔伝送できるという点です。こうなると、被災直後の現場でドローンをまさに飛ばしながら、霞ヶ関の国交省にデータを転送して、同じデータをリアルタイムに共有することも可能になってきます」

最後に、KDDIスマートドローンが提供する上空電波を使用いただいている事例と感想について伺いました。

「『令和6年度三重四川連合総合水防演習』では、KDDIスマートドローンさんの上空モバイル通信を使用しました。ハイブリッドドローンの『GLOW.H』に、KDDIスマートドローンさんの上空モバイル通信を用いて、河川の状況をリアルタイムに映し出すことができました(演習当日は悪天候のためドローン飛行はできませんでしたが、予行演習の映像をメイン会場で映し出しました)。」(冨井様)

<KDDIスマートドローンの上空モバイル通信で飛行する『GLOW.H』>

「また、KDDIスマートドローンさんの上空モバイル通信エリアマップは、UIなども非常に使いやすく、上空モバイル通信利用申請と飛行計画通報が同時にできるのもありがたいです。災害対応などで『TDOT7NIR』や『TDOT7GREEN』を使用して、遠隔地に計測データを転送することを考えると、当日に上空モバイル通信利用申請できることも大きなメリットです」(冨井様)

<上:上空モバイル通信エリアマップ 下:上空モバイル通信申請画面>

今後もKDDIスマートドローンは、高度なドローン活用の実現と利用拡大に取り組み、ドローンの社会実装を加速していきます。