「UTM」最前線実運用に向けた現状と課題、今後の展望を3者で議論

今回ご紹介するシステム「UTM」

UTMは、ドローンの飛行を安全に管理するためのシステムです。飛行ルートの計画、現場の安全確認、飛行リスクの管理をサポートし、事故の予防や運航の品質向上に役立ちます。使用者が複数いる空間や目視外飛行が運用される環境では、ドローンの安全運用に欠かせないシステムです。

KDDIスマートドローンは、2023年6月26日(月)〜28日(水)に開かれた「ジャパンドローン2023」の国際コンファレンスにおいて、「UTM元年!〜実運用フェーズへの道のり」と題したパネルディスカッションに登壇しました。今回は、その内容をレポートします。

UTMとは? 3つのステークホルダーの観点から理解を深める

パネルディスカッション「UTM元年!〜実運用フェーズへの道のり」には、当社プラットフォームサービス開発部 部長の杉田博司、日本航空 デジタルイノベーション本部 エアモビリティ創造部 オペレーション企画グループ グループ長の田中秀治氏、経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課 次世代空モビリティ政策室 室長補佐の石尾拓也氏が登壇し、モデレーターは、三菱総合研究所 フロンティア・テクノロジー本部 次世代テクノロジーグループリーダー大木孝氏がつとめられました。

左から、三菱総合研究所の大木氏、KDDIスマートドローンの杉田、日本航空の田中氏、経済産業省の石尾氏

本パネルディスカッションにおいて、当社は「UTMプロバイダ」、日本航空様は「UTMユーザー(ドローンオペレーター)」、経済産業省様は関係省庁というそれぞれの立場から、UTM現状と課題、そして今後について意見を交わしました。

最初に当社杉田が、「UTMはどのようなシステムか」という観点で、当社のUTMの主な取り組みと、UTMとは何かについてご説明しました。

「KDDIは、2017年からNEDOのDRESSプロジェクトで運航管理システムの開発の責任者をつとめています。2021年度には国内最大規模の全国13地域の自治体や約100社の企業と連携して52機のドローンを東京の管制に接続して同時に飛行させ、運航管理を行う実証を実施しました。管制システムがどのようにワークするか、オペレーターへの有効性などについて実証しました。その結果、今後は空域を管理する、いわゆるインターネットのプロバイダのような空域管理システムが必要であることが分かりました。2022年度からはNEDOが推進する「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト (ReAMo (リアモ) プロジェクト)」に参画して、引き続きさまざまな研究開発を行っています」(杉田)

「UTMとは広義の意味では、UTMSアーキテクチャ全体を指します。レベル4解禁を受けて、膨大な数のドローンが同時に目視外で飛行するという未来に備えて、日々の飛行を実施する方や遠隔からドローンを管理する方といったドローンのオペレーターにとって利便性が高く、DIPSをはじめとする航空局のシステムとの連携を図れるようなドローン運航管理システムを、認定プロバイダとして進めていく必要があります。そして、ドローン運航においては地図、電波、気象などのさまざまな情報が必要になるので、この認定プロバイダがさまざまな情報を集めて、運航管理や飛行計画策定の支援をできるシステムを構築し運用していく必要があると考えています」(杉田)

次に日本航空田中様が、「UTMをどうやって使っていくのか」という視点でご講演されました。同社は、ドローン物流の事業構想を、「導入期」「成長期」「拡大期」という3つのフェーズで考えており、今後はリテールの物流や血液製剤輸送といったフェーズ2へと進んでいく予定だといいます。このとき、ドローン物流の事業ポイントとして重要になってくるのが「1対多運航」や「高密度運航」であるとして、ReAMoプロジェクトでの経験も共有してくださいました。

「安全面と効率面、両方の課題を解決する必要があります。その課題解決の手段の1つとして、2022年度 ReAMoプロジェクト KDDIコンソーシアムに参加して、1人の遠隔操縦士による2機体同時運航を実施しました。2機のカメラ映像を同時に並べてみながら状態を監視し、何かあったら対応できるインターフェースをKDDIさんと一緒に試させていただきました」(田中様)

続いて経済産業省の石尾様が、UTMに関する政府の動きについて共有されました。2022年12月にドローンのレベル4飛行が解禁されたことを受けて、物流や警備の分野をはじめドローンの利活用がさらに広がっていき、社会や日常生活のなかにドローンが溶け込んだ未来を想定して、政府としてもたくさんのドローンをいかに安全に管理していくかという課題の解決に向けた取り組みを行なっているということです。

「経済産業省はNEDOさんと一緒に、ReAMoプロジェクトを進めています。大きく柱は3つあります。1つめは、ドローンや空飛ぶクルマの機体が安全性能を有することをしっかり証明できるよう、証明手法の開発を進めることです。2つめは、ドローンの利活用が広がっていくためには1人のオペレーターさんが5機、10機と同時に運用することでオペレーション費用を下げることも課題となるので、1対多運航などの技術の開発にも取り組んでいます。3つめは、今日の議題にも関わるところですが、運航管理技術の開発です。将来的には、同じ空域を複数のモビリティが共有することが想定されるので、しっかりと安全に運航を管理すること、またはそれぞれの機体が飛びたいように飛べるようお互いの機体間で計画を調整し合って効率の高い運航ができることを目指しています」(石尾様)

また、ディスカッションに入る前に、前提知識として大木様より、「UTMの動向に関する欧米の動き」についてご説明がありました。

米国の特徴は、最も空域が混雑する空港周辺地域において、特定の高度以下での無人航空機の利用の承認を、ほぼリアルタイムかつ自動処理で与える通知機能である「LAANC(Low Altitude Authorization and Notification Capability)」を社会実装してしまったところで、このようにFAA(アメリカ連邦航空局)はすでに10社以上のLAANCプロバイダを承認し、各社はLAANCを含めた独自のUTMをFAAの認定を受けたうえでサービス提供している状況だそうです。

欧州の特徴は、2017年にU-SpaceというUTMに関する構想を打ち出して、4フェーズによる段階的なサービスと機能の拡張を進めているという点です。特に、U-Spaceの運用のためにEU規則を策定して各国が自国への適用を目指して取り組んでいることや、先行する国ではANSP(航空ナビゲーションサービスプロバイダー)が主導する形でUTMの社会実装を進められているという点も、重要なポイントだそうです。

3つのテーマで行われたパネルディスカッションの全容

パネルディスカッションでは、「UTMの真の価値とは何か?」「UTMのサービス形態は?」「UTMの運用に必要な制度は?」という3つのテーマで意見を交わし、UTMへの理解を深めていきました。

1つめの「UTMの真の価値」については、田中様より「ドローンを安全かつ効率的に飛ばしたい」という前提でのご意見がありました。「安全性については、リスクを考慮した飛行計画策定や不測の事態や緊急事態での適切なアナウンスなどを、UTMが提供してくれたらと思います。また、効率性や事業性については、例えば電波確認や飛行計画と実行状況のリアルタイム確認が自動で行われるといったサービスがUTMから提供されると、機体の性能を最大限に発揮して空域を最大限活用するということが可能になるのではないかと思います」(田中様)。

 

こうした要望に対して当社杉田も、「UTMとは、安心安全と効率の両方を実現するサービスだ」と目線を合わせたうえで、2022年12月の航空法改正について「実はレベル3飛行でビジネスしやすくなったことが重要なポイントだ」と指摘。「UTMの機能やサービスを活用することで安全性と効率性の両方を向上していきたい」と意欲を示しました。また将来的には、例えばDIPSとの連携によって飛行申請や飛行空域が重複した場合のリアルタイム通知などを行い、UTMによる運航支援を目指すと話しました。また、「研究から実装に向けては、2つのポイントが重要。1つは、オペレーターと連携して本当にワークするかどうかを検証すること。もう1つは、空域の調整を事業者間が行う場合のルールメイキングとそのシステムの開発だ」と意見を述べました。

2つめの「UTMのサービス形態」については、まず当社杉田からUTMプロバイダーの視点で、どのようなサービス形態で提供していくのかをご説明したのちに、石尾様、田中様よりご意見をいただきました。

「UTMは、インターネットのプロバイダーのようなもので、プロトコルがあってワークするような形になるのかなと思っています。メーカーさんとの連携はもちろん、物流、警備、監視、点検、測量などのサービサー各社さんともどんどん連携して、つながっていくエコシステムを目指します。やはり、市場のニーズを認識しながら作ることで、どんどん使い勝手を良くしていくことが非常に重要で、ここは民間事業者である我々が本領を発揮するべきところだと考えています。また、地域の方々との連携も大きな課題です。例えば、来週は条例でここは飛行禁止区域になりますといった情報も、UTMを通じてオペレーターの方々と連携できる、そういったものを作っていかないといけないと思っておりますので、地域に根ざしたエコシステムにしていく必要があると思っています」(杉田)

 

これに対して石尾様は、「物流ひとつ見ても、地域の方々や自治体さんも含めてしっかりとドローンの社会実装を後押ししているところが成功的に進んでいる」と話して、「メーカー、ベンダーだけではなくて、オペレーターの方々、地域の方々も含めてエコシステムを構築していくべき」と、共通認識を示されました。

続いて田中様は、「弊社より先行している方々がいらっしゃることは重々承知しており、大変僭越ではあるが」と前置きしたうえで、ReAMoプロジェクトにおける奄美大島での実証の体験を共有。「現地の方からの活用シーンを教えていただくことが多々あった」と明かし、「現地に行って、いろんなことを地域の方との関わりから知ることでドローンの利用シーンが増えていき、地域では関係人口が増えていき、雇用が増えて、そこでさらにその移動のも増えていく。ドローン業界のみならず、航空業界的にも、地域の方々との連携は、非常に大きな点だ」と話されました。

加えて、「2025年に段階的なUTMの事業化、認定プロバイダー制度の利用を目指す」という政府方針にも話題は発展し、「ユーザーニーズに適ったシステムを実現するためには、まずやってみなければ」と3者が改めて目線を合わせるシーンもありました。

この流れで、3つめの「UTMの運用に必要な制度」についても議論が進められました。石尾様は、「3つのステップに分けて段階的にUTMの導入を目指す」という政府方針を改めて説明。田中様は、「安全面からはUTMから提供される情報の正確性や即時性といった信頼性、あるいは各システム間の補完性や使いやすいインターフェースも重要だ」と講話し、そのまま話題は「認定プロバイダーの要件」へと移っていきました。

これに対して杉田は、「UTMの認定プロバイダーの要件は3つある」と話して、各観点についてこのように整理しました。

「UTMの認定プロバイダーの要件の1つめは、事業者要件です。本当に信頼性が高い事業者であることを判定するのに、どのような基準が必要かを決める必要があります。2つめは、技術サービス要件です。これはありがたいことに、欧米の事例を参考にできるし、日本はすでにDIPSが社会実装されていますので、各国見つつ、日本ならではの、かつあまりガラパゴス化しないサービス要件というものを作っていく必要があると考えています。3つめは、インターフェースです。インターフェースが変わってしまうと、アーキテクチャも全部一からやり直しになってしまうので、例えば機体とUTM間、UTMと政府のシステム間、UTMと他のシステム間のインターフェースを、ドローン業界全体である程度共通で策定して行かなければならないのではないかと思います」(杉田)

今後のUTMに関する取り組みの方針について

最後に、3つのテーマで行われたパネルディスカッションを踏まえて、今後はUTMの社会実装向けて、どういう取り組みをしていくのかという方向性について、3者が意見を述べました。

杉田は、「最近はドローンが、SIMや通信モジュールを搭載してネットワークにつながって、ワークするようになってきており、今後はUTMに接続することで、ドローン利活用の安全性と効率性が担保されるという流れが加速していく」と現況を整理したうえで、このように話しました。

「UTMとは、ドローンビジネスを支えるデジタルインフラです。ドローン業界のみんなが協力して、鉄道インフラや通信インフラのように一般の方々も許容できるような、社会に欠かせない少子高齢化社会の必須ツールへと、UTMを昇華させていくことが必要なのではないでしょうか」(杉田)

続いて、「ドローンはまだ新しい業界だと見られているが、早く社会の当たり前にしていけるよう、業界の方々と連携して取り組んでいきたい」(石尾様)、「B2Bの運航の最適化を図るために、デジタルインフラとしてのUTMは今すぐにでも必要。ドローンと空飛ぶクルマが同じ空域で共存する世界が来ることも意識しながら、引き続き取り組んでいきたい」(田中様)とのお話もいただきました。

最後に、杉田が「UTMはコネクテッドシステムでもあるので、他のシステムとつながってビジネスができるようになれば、産業全体が盛り上がる」と言い添えると、モデレーターの大木氏も「ぜひ、本日のディスカッションを絵姿で終わらせず、社会実装を目指して、このメンバー、そしてこの業界の皆さん全体で進めていきましょう」とお話になって、約1時間の白熱した議論に幕が下されました。