ドローン物流による医療物資輸送の社会実装に向け、「レベル4飛行」を見据えた長期運用の実証を都内で展開

KDDIは2023年2月、KDDIスマートドローンと日本航空(JAL)様、医療用医薬品・医療機器の卸売事業を手がけるメディセオ様、東日本旅客鉄道(JR東日本)様、気象情報会社のウェザーニューズ様と共同で、ドローンを活用した医療物資輸送の実証を東京都あきる野市で展開した。これは、ドローンの「レベル4飛行(有人地帯における補助者なしの目視外飛行)」を視野に入れた、医薬品や検体を輸送する1カ月間という長期にわたる実証だ。ドローンを活用した医療物資輸送の課題と可能性がさまざまに検証されている。

医療物資輸送におけるドローンの有効性

KDDIとKDDIスマートドローンはかねてより、ドローン物流の社会実装に向けた実証を各地で展開してきた。東京都あきる野市で2023年2月1日に始動させた実証は、その延長線上にある試みの一つだ。

2022年12月5日に施行された改正航空法でドローンのレベル4飛行が可能になり、東京都ではそれを機に「ドローン物流サービスの社会実装促進に係る実証プロジェクト」をスタートさせた。KDDIの実証はそのプロジェクトに基づくもので、取り組みのゴールは、東京都内の医療機関等を対象に、医薬品や検体といった医療物資を、ドローンを使って迅速に配送することで、最終的には2025年度にドローン物流ビジネスを立ち上げることを目指している。

この取り組みの意義について、医療用医薬品・医療機器の卸売事業者としてプロジェクトに参加したメディセオ 物流管理部 部長 旭 友也 様は、「医療機関において高価で使用頻度が低い稀用医薬品は、在庫を手間とコストをかけて保持する必要があり、なおかつ、未使用による破棄も発生します。オンデマンドでの速やかな入手により、それらの課題を解決できます。そのニーズにドローンで応えることが、目指すゴールの一つです」と話し、こう続ける。

「弊社にとって医療機関のお客さまが必要とする医薬品を迅速にお届けすることは大きな使命です。しかし、都市部における自動車を使った既存の輸送では、渋滞による納品遅延、輸送の担い手の高齢化・人手不足の深刻化等、不安定な状況が続いてしまいます。ドローン物流には、そのような状況を打開する可能性を感じています」

株式会社メディセオ物流管理部部長
旭 友也 様

また、今回の実証を取りまとめるKDDI ソリューション事業本部 DX推進本部 DXサービス推進部 DXサービスグループの保澤 辰至は次のように語る。 「医療用医薬品のように軽量・コンパクトで高価な製品は、一度に輸送できる荷物の大きさや重量に制約のあるドローン物流に適しています。つまり、医薬品輸送の検証を重ねて課題を洗い出すことは、ドローン物流の事業化という点で意義があります」

KDDI株式会社ソリューション事業本部DX推進本部DXサービス推進部 DXサービスグループ
保澤 辰至

さらに、ドローンによる検体輸送も大きなニーズが見込まれると、旭様は言う。

「ドローンを使い、検査機関が検体のオンデマンド集荷を実現できると、検査時間を大幅に短縮できます。そうなれば、医師による患者の治療計画の早期立案も可能となるはずです」

ドローンを活用した総合医療物流のイメージと今回の実証のスコープ

運航管理システムによる遠隔操作で医療物資を輸送

使用されたドローンは、KDDIスマートドローンが開発したドローン専用通信モジュール「Corewing 01」を搭載したACSL社製の機体「PF2-LTE」だ。また、機体の運航と安全管理は、KDDIスマートドローンが開発したモバイル通信を用いて機体の遠隔制御・自律飛行を可能とする「スマートドローンツールズ」*1の運航管理システムを使い、JAL様が遠隔から担った。

実証に使用されたACSL社製の機体「PF2-LTE」

「JALはこれまでも、KDDI、KDDIスマートドローンと共同でドローン物流の実証を展開してきました。KDDIが開発した複数のドローン事業者の運航管理を行うシステムに、JALが培ってきた安全管理や運航管理といった航空運送事業の技術・知見を組み合わせることで、ドローンの運航管理業務を行う体制の構築を目指しています。その活動を通じ、将来的にさまざまな地域でたくさん飛び交うであろうドローンに対して、運航管理のビジネス展開を視野に入れています」(日本航空株式会社 デジタルイノベーション本部 エアモビリティ創造部 事業開発グループ アシスタントマネジャー 矢野 衣里子 様)

日本航空株式会社デジタルイノベーション本部エアモビリティ創造部事業開発グループアシスタントマネジャー
矢野 衣里子 様
実証に使用されたKDDIスマートドローンの運航管理システムの画面

「ドローン運航に関しては、まだ今後さまざまなルールが策定されていくという段階です。我々は事業者として、ビジネスで本格展開するためにはどういったルールが必要かを、さまざまな実証を通じてまとめ、監督官庁や関係者に声を上げていきたいと考えています」(KDDIスマートドローン株式会社 営業部 笹原 紗おり氏)

KDDIスマートドローン株式会社営業部
笹原 紗おり氏

この実証に参加しているウェザーニューズ様は、気象IoTセンサー「ソラテナ」を現地に設置。ソラテナは気温、湿度、気圧、雨量、風速、風向などの気象データを観測できるセンサーで、クラウドとの連携も可能となっている。

また、JR東日本様では、地域住民に対してドローン物流の社会受容性向上に向けたイベントを展開し、子どもたちに学びの場を提供するとともに、住民の認知度向上を目指した。

*1 スマートドローンツールズ:KDDIスマートドローンが提供する、ドローンの遠隔自律飛行に必要な基本ツールをまとめた「4G LTEパッケージ」に、利用者さまの利用シーンに合った「オプション」を組み合わせて利用できるサービス。「4G LTEパッケージ」は、全国どこからでもドローンの遠隔操作・映像のリアルタイム共有を可能とする「運航管理システム」や、撮影したデータを管理する「クラウド」、データ使い放題の「モバイル通信」の3つのツールをまとめて提供している。

本格的な運用に向け、より安全に運用できる仕組みを模索

1カ月間にわたる今回の実証では、医療物資輸送やドローン物流の事業化に向けた技術面、ビジネス面、制度面の課題を洗い出すことに力点が置かれた。この目的のもと、メディセオ様はドローンを使用した医薬品配送手順の検証・策定を推し進め、JAL様ではドローンのレベル4飛行についての運航管理上の課題を抽出することに力を注がれた。

笹原氏は今後について、「ドローンの本格的な運用は、何かトラブルがあった際でも解決できる手順が確立されてから行われるべきだと考えています。試行錯誤しながら、製造・開発の中心メンバーではなくても確実に運用できるようにすることがKDDIスマートドローンの使命だと考えています。2022年10月に社内に運用の部署を組織し、運航管理システムがより安全に運用できる体制を整備しています」と話す。

また、矢野様、旭様もドローン物流にかける思いをこう話す。

「ドローン物流で魅力的なことは、単に現状の輸送方法をドローンに置き換えることだけではありません。ドローンを含めて生活全体をDX化することで、例えばスマートフォンで荷物の配送を頼むと、ロボットが荷物を取りに来て、ドローンを使い搬送してくれるといった快適な未来が描けます。そのような未来の実現に向けてこれからも貢献していきます」(矢野様)

「弊社が描いている未来も、ロボットとドローンを使用し自宅で寝たきりの患者さまに必要な医薬品を必要なときにお届けする等、在宅医療の合理化に貢献することです。そのような世界がいち早く実現されることを願っています」(旭様)

最後に保澤は、「物流に適したドローン機体の開発もどんどん進化しています。また最終的には、矢野様や旭様のおっしゃっているように、ドローンで完結する必要はなく、ロボットや自動運転車などと管理システムを介してつながることで、手元まで荷物が届くというところまで目指していきたいです」と未来を展望する。

KDDIとKDDIスマートドローンでは、さまざまな思いを巻き込んで、ドローン物流の事業化と社会実装に向け着実に歩みを進めている。