- 点検
現地調査が3日から1日に ドローンが橋梁点検の常識を変えた
日本全国には約72万橋の橋梁があり、建設後50年を経過した橋梁の割合は、10年後には52%にまで増加する見込みとなっています。今後、高齢化や人材不足が深刻化していくことが想定される中で、点検業務の効率化やコスト削減、安全性の確保などがより一層重要になります。
本記事では、橋梁の点検や調査、耐震補強工事にドローンを活用し、業務効率化を実現している株式会社補修技術設計 代表取締役の中馬勝己様、技術部長の斉藤雅信様にドローン導入の背景や活用方法などについてお話を伺いました。
目次
早い時期から橋梁点検でのドローン活用を検討
初めにドローンの活用を試みたのは8年ほど前、まだ日本ではドローンの存在自体があまり知られていない時期です。当時は山間部の斜面にかかる橋などの調査をする際に、ロープで吊した一眼レフを下ろして連写するといった方法をとっていました。この作業をドローンで代替できるのではと考えて海外から機体を取り寄せたのが最初です。
地方の調査に出向いた際に安全な場所で実際に飛ばしてみたものの、思うように操縦できずに1回で壊してしまいました。業務で使うにはきちんとした教育や訓練が必要だと実感して、その後しばらくは導入を見送っていました。
実際に業務に導入したのはそれから3年ほど経ってからです。その頃には日本でもドローンスクールができていたので、社員にスクールに通ってもらい、操縦者を徐々に増やしていきました。ただし、当初は大型機を使用していたため狭い場所に入ることができず、ドローンを使った調査はごく一部にとどまっており、それが課題となっていました。
3日かけていた橋梁調査が1日に短縮し精度も向上
現在のように調査業務の多くをドローンでまかなえるようになったのは、小型機を導入してからです。現在使用しているものはSkydio 2+ですが、床版とよばれる橋の裏面の調査を行う場合に、床版下面に対して1.0メートル程度まで接近できます。
大型機で課題となっていた狭い場所の調査を行えることに加えて、障害物を自動で回避する機能を備えていることも大きなメリットです。トレーニングを重ねているとはいえ、私たちも操縦のプロではないので、どうしても不安が伴います。Skydio 2+は、意図的に障害物にぶつかろうとしてもできないくらい優れた回避機能を備えているので、調査時の安心感はとても大きいですね。
また、回避機能のメリットを生かして撮影したい場所に接近できることで、動画の画質を上げることができ、細かいひび割れなども鮮明に記録できる点も強みです。現在も場所によってはドローンで入ることのできない箇所もありますが、小規模な橋の7割程度はドローンだけでカバーできています。
撮影した映像は、SfM(Structure from Motion)とよばれる技術によって3Dデータに変換します。動画で撮影したものから画像を切り出し、そこから3次元の立体を作ることで、正確な寸法や損傷の箇所を確認できるようになります。さらにその後、Arena4D Data Studio-Jというソフトウェアを使って点群データを取り込み、点群上に文字や画像、CADデータなどを重ね、3Dモデルを作成します。これによって、3Dモデル上で損傷等が表現できるように動画にしたものをクライアントさんにご覧いただいています。
小規模橋梁の調査では、最初に踏査(とうさ)とよばれる下見を行い、その後、形状調査、損傷調査と3段階の現地調査を実施していました。ドローンを使った調査では、1回15分のフライトを3〜4回、約2時間の撮影を行うだけで、橋梁全体を撮影できます。それを持ち帰って3Dモデル化することで、1回の現地調査だけで調査を完結させられるようになりました。
調査にかける時間だけをみれば、3日かけていたものが2時間に短縮できたということになりますが、操作する人の教育や指導、訓練などにある程度の時間を費やす必要があるため、実感としては「3日かけていたものが1日分相当になった」くらいの印象ですね。それでも効果はとても大きいと感じています。
橋梁の耐震補強工事でもドローンが活躍
ドローンが活躍するのは点検業務だけではありません。既設の橋梁の耐震補強工事では、1〜2ミリの誤差しか許されない正確さが求められます。以前、前年度の計測結果を使って工事を行う際に、その計測結果が正確かどうかを確認する必要が生じたものの、現場に足場をかけて再度調査していたのでは工期がオーバーしてしまうという状況が起きたことがあります。そのときに、ドローンを使って調査を行うことで足場を組むことなくミリ単位で正確な計測ができ、結果的に工期を守ることができたという事例がありました。
時間をかけずに正確な計測が行えるため、結果的に手戻りや工期の延長を減らすことができるので、クライアントさんからも喜んでいただいています。
現場トラブルも電話でサポートしてもらえるので安心
KDDIスマートドローンさんには、いつも全面的にサポートしていただいています。機体についての疑問などは迷惑になるのではというくらい聞いていますし、栃木県小山市のKDDIネットワークセンターで実施しているデモ会に若手社員を連れて行って、最新の情報について学んでもらうこともあります。 一番助かっているのは、現場でトラブルが起きたときも、すぐに電話でサポートしてもらえることですね。やはり現場ではいろいろなことが起きるのですが、そのときに直接確認できることがとても心強く思っています。
女性フライヤーも活躍、ベテラン社員の点検技術と補完しあう現場
ドローンを使った調査は、力仕事や危険を伴う作業ではなく、機体には障害物の自動回避などの安全に運行するための機能も備わっているので、男性でも女性でも関係なく携われる点もいいところだと感じています。
弊社では、女性社員もドローンを使った点検を行っており、精度の高い撮影に貢献してくれています。この業界はどうしても力仕事中心で男性が多いという印象を持たれがちなので、女性も活躍できることは、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思っています。
また、若い人だけではなく、60歳を超えたベテラン社員も含めた全員にドローンスクールに通ってもらっています。実際の操縦は、やはり若い人のほうが上手なのですが、現場で安全に作業するには、ドローンの技術以外にも気をつけなければならないことが多々あります。そこで、若い人とベテランがペアで現場に出向き、操縦技術に長けた若手と、現場の知識を持ったベテランが相互に補完しあいながら業務にあたっています。
人材不足課題もドローンで解決
建設業界は今後、ますます高齢化や人材不足が深刻化していき、調査予算も縮小していくことが予測できます。そのような状況にどう対処していくのかは、この業界の事業者にとって共通の重要な課題です。
男女も世代も越えて業務に携わることができるドローンを使った点検作業は、今後の建設業界を支えるうえで大きな可能性を秘めていると感じています。普及はまだまだこれからですが、導入を検討している事業者の方には、ぜひ実際に撮影した映像を見ていただきたいと思っています。実際にご覧になることで、ここまで鮮明に撮れるのかとその効果や可能性を実感していただけるはずです。
私たちとしては、将来的には現在の使い方からさらに進化させて、AIなどを取り入れた運用ができたらと考えています。たとえば、3Dデータを確認して損傷を見きわめる作業は、現在は目視で行っていますが、作業する時の視線や動線をAIに学習してもらうなどして、AIが判別できるようになれば、今のベテランが年齢を重ねて現場を離れても、その技術が引き継がれることになりますし、生産性向上にもつながるはずです。そんな未来をKDDIスマートドローンさんと協力しながら作っていけたらいいですね。