【DJI Dock2×Starlink】北見工大、河川工学の専門家らによる実装に向けた「防災・災害対応でのドローン活用」実証

2024年6月北見工業大学(以下、北見工大) 社会インフラ工学コース 渡邊康玄教授、白井秀和准教授は防災・災害対応でドローンが迅速に情報を収集してデータを共有するシステムの構築を検討しており、今回充電ポート型ドローンのDJI Dock2や衛星通信サービスStarlinkを組み合わせた利用や、高度なLiDARを活用した地形データの取得の検証を行いました。KDDIスマートドローン株式会社は機材の販売に加えて、適切な運用方法・検証のサポートを行いました。今回は、本実証の内容や今後の展望について、渡邊氏と白井氏、当社担当の貴島氏にインタビューしました。

本実証の目的と取組概要 「リアルタイム情報による災害対応を」

河川工学・河川防災工学などを専門とする渡邊氏、沿岸域・河口域の基礎水理学などを研究する白井氏は、災害時の行動や判断の手助けになるデータを取得し、情報を提供できるシステムの構築を手がけています。

「これまで、内水氾濫や高潮などの災害が起きるたび、何度も現地調査を行ってきましたが、発災時にリアルタイムで起こっている現象を把握することは難しかったため、4〜5年前からドローンを活用してリアルタイム情報を取得できないかと考えてきました。リアルタイム情報があれば、一般市民はもちろん、自治体、企業など、いろいろな方々の災害時の行動に、よりよい大きな影響を与えられるからです。そこで、災害時にどのような情報が必要かといった知見を蓄えてきた工学、土木の専門家として、災害時に本当に役立つシステムの構築を手がけたいと思いました。」(渡邊氏)

北見工大 渡邊康玄氏

背景には、防災や災害の対応における人手不足という課題もあります。限られた人員でも、現況を広範かつ迅速に把握し、復旧を見据えた対応を講じることを目的に、自動飛行・遠隔管理できるドローンを活用して、リアルタイム情報を効率的に取得することを目指しました。将来的には、AIも活用した複数機体連携による自動飛行で、無人化・省人化も視野に入れているとのことです。

しかし、着想すぐの頃は、ドローンの性能が不足していたため、長らく挑戦を見合わせていたといいます。今回の実証では、当社独自開発のLTE アタッチメントを用いた複数機体連携飛行デモを事前に行うなど、KDDIスマートドローンの技術やノウハウもしっかりと活用した上で、DJI DocK2など最新機器を“社会実装前提”で購入いただきました。

「我々が目指す災害対応システムでは、ドローンの遠隔運航を前提としています。このため通信の技術やノウハウを持つ企業さんに、お力添えいただきたいと考えていました。KDDIスマートドローンさんからは、最新機器に関する詳細情報や、操作方法、これから見込まれるであろう技術革新などのトレンドまで含め、いろいろとアドバイスいただけたので、本当に安心して購入に至ることができました。」(白井氏)

北見工大 白井秀和准氏

実証内容は、大きくは2つです。1つは、過去に内水氾濫が発生した市街地エリアで、DJI Dock2やStarlink Businessを用いて、即時性や遠隔での動作性を実証しました。もう1つは、ダム放流による疑似増水時に、DJI MATRICE350 RTK及びZenmuse L2を用いて、地形データの計測、点群データ作成などを行いました。

実証① 市街地の内水氾濫モニタリング:「DJI Dock2×Starlink」

「洪水の時に人が避難するとか、あるいは被災状況を確認するのは、まずは市街地であることが多いです。本実証は実装を前提としていますので、過去に内水氾濫の経験がある場所を選定しました。」(渡邊氏)

市街地の実証実施場所である「とくさわら樋門」は、伏古別川と十勝川の合流地点にあります。水位計やカメラで、水面の高さ、雨の降り方などを、常時モニタリングできているところです。将来的には、既存のモニタリングシステムが内水氾濫の危険性を検知すると、それをトリガーにしてドローンが自動飛行する、というミッションも想定しています。

とくさわら樋門付近の川沿いに「DJI Dock2」を設置し、上流と下流の2区間(各距離200〜300メートル)を高度30メートルで自動飛行、映像データを取得した

DJI Dock2

DJI Dockから性能を向上させつつ、大幅な小型化を実現したDJI Dock2は、Matrice 3DまたはMatrice 3TDドローンを搭載し、簡単操作で安全にタスクを遂行。軽量設計のDock2は、優れた運用性能とクラウドベースのインテリジェント機能を提供し、効率的で高品質の自動オペレーションを実現できます。

本実証では、とくさわら樋門から電源供給できる川沿いに、DJI Dock2を設置して、即時性や遠隔での動作性を実証しました。河川上空から市街地を撮影し、どれくらい飛ばせば市街地のどこまで撮影できるか、発災時に逃げ遅れた人や浸水の状況をどの程度把握できるか、通信を介して遠隔地から映像を見たときの映り方などを細かく確認しました。将来的には山間部へのモニタリングエリア拡大や、大災害などで通信が途絶した際の運用、人の手を介さない複数機体の自動連携飛行も見据えているため、併せてStarlink Businessも使用しています。

「DJI Dock2の有効性や、実際に設置する環境条件についても、本実証で確認できました。高度30メートルで飛行したのですが、音があまり気にならなかったことも、市街地に親和性があると感じています。気象条件についてはもう少し精査が必要ですが、今後はできるだけ早く実装して、複数機体連携の研究も進めていきたいです。」(白井氏)

飛行中のモニターを確認する白井氏(左)と渡邊氏(右)

実証② 疑似増水時のデータの取得:「DJI Matrice 350 RTK」

「実際の洪水時にドローンを飛ばして試験することは難しいですが、毎年計画的に実施されている札内川ダム放流を利用すれば、事前に観測の段取りを組めるので、この疑似増水時にドローンによるデータ取得を行いました。」(渡邉氏)

本実証では、DJI Matrice 350 RTKとDJI Zenmuse H20T,L2などのペイロードを用いて、点群データ・映像データを取得しました。

「DJI Matrice 350 RTK」
6方向障害物検知かつ誤差センチメートル級の位置測位が可能で、「精度の高い自動航行」を行うのに最適な機体。最大飛行時間は55分、耐風性能は15m/s、保護等級はIP45と、悪天候の日でも運用しやく、搭載するカメラは用途に合わせて交換可能。
中島新橋を離発着地点として、札内川上流と下流の2区間(各距離2〜3キロメートル)を、水の増減状況に合わせて1日に複数回飛行して、点群データ・映像データを取得した(レベル2・3飛行)

レーザーによる点群データ取得の目的は、災害時対応はもちろん、平時から基礎データとして蓄積していくことで、防災にも役立てようということです。また、点群のほうが、写真(オルソ画像)よりも広範囲に地形データ測量できることもメリットとして注視しました。

「川の形状が少しでも変わると、いろんな影響が出てきます。川の地形、あるいは川の周辺の地形を、平時から抑えておけば、ちょっとした変化でも常時把握できます。そうすれば、災害の危険性が増したら事前に対処することも可能になり、災害の予防にも役立ちます。」(渡邊氏)

「DJI Matrice 350 RTK」飛行中のモニター画面

映像データ取得の目的は、氾濫検知AIシステム構築のための教師データ取得です。目下、氾濫時のモニタリングにかかる労力を削減し、人間の安全を確保することを目指し、AIによるデータ解析システムを構築しており、疑似増水時の川の水面が上昇・下降する状況をドローンで撮影した映像データを教師データとして活用することで、AIの精度向上を図る予定です。

「洪水時には、時事刻々、現況が変わってきます。水面のエリアや高さをどれだけ正確に計測できるか、水面と水面でない境界をどれだけ明確に把握できるかなどを、リアルタイム情報で実証できる疑似増水は、本当に貴重な機会でした。」(渡邊氏)

「雨で河川が増水した画像データは非常に少なかったので、放流により段階的に水量が増えていく映像を、定点位置から取得できたことで、AIの精度向上に役立つと思います。いままさに生成AIも活用しながら、増水前後を比較できるシステムの開発にも取り組んでいるところです。」(白井氏)

複数機連携での自動飛行、AI活用も目指す

今後は、市街地エリアにおいては、DJI Dock2を早期に社会実装し運用を目指しつつ、その他モニタリング計測機器との連携や、複数機体連携飛行の研究を進める予定です。また、河川氾濫のリアルタイムモニタリングにおいても、AIの精度向上を図りつつ、飛行システムと取得データの一括管理や、河川管理者の速やかな対応、自治体の迅速な住民対応などに役立つ、災害システムの構築を目指すとのことです。KDDIスマートドローンも、機体間の相互通信や、AIを活用したフライトプラン作成など、ドローンをはじめとするさまざまな最新技術の活用において、引き続き協働していきます。

「防災や災害対応をテーマとした研究はたくさんありますが、今回のように実際に被災したことがある現場や、疑似増水した現場での実証は、事例としてはまだまだ多くないなか、もともと河川や港湾の水害を専門分野として研究してこられた先生方の知見を生かして、最先端の研究に昇華しているところが、本当に素晴らしいと感じています。これからも、KDDIスマートドローンの知見や技術も活用いただき、社会的にインパクトある防災・災害対応システムの構築に寄与できれば幸いです。」(KDDIスマートドローン・貴島氏)

「我々のやりたいことに寄り添い、情報提供いただき非常に助かりました。KDDIスマートドローンさんからのサジェスチョンがなければ、多分全然進んでいなかったと思います。5年前に頭にあった構想が、貴島さんたちに相談するなかで、ようやく現実化してきました。本実証で、最終的にやりたいことの各パーツについては、めどが立ってきたので、今後はそれを統合した時に本当にうまく社会実装できるかに焦点を当てて、引き続き取り組んでいきたいと思います。」(渡邊氏)

「昨今、自分の専門分野だけでどうこうできるものじゃない課題が、すごく増えてきたと感じています。KDDIスマートドローンさんは、外部連携プロジェクト推進にも、非常に慣れていらっしゃると感じました。我々としてはとてもやりやすく安心していろいろとお任せできたので、本当に感謝しています。これからもよろしくお願います。」(白井氏)