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「DJI Dock × Starlink」で砂防の巡視点検を遠隔管理し高度化を図る実証実験

導入事例:中電技術コンサルタント様

今回使用したドローンドック「DJI Dock」

DJI Dockは、機体の格納や充電ができ、飛行プランの設定や指示と、離着陸時や飛行中の監視といった遠隔管理をするための通信機能を持つ、DJI社製のドローンドックです。風向風速や雨量を計測できる「一体型ウェザーステーション」、Dock周辺を監視できる「広角セキュリティカメラ」、センチメートル級の測位精度を達成する「RTKモジュール」を搭載。機体はDock専用の「Matrice 30T(Dock版)」。DJIの各種産業機にも対応したGround Control System「DJI FlightHub 2」で運用します。

「DJI Dock」と「Matrice 30T(Dock版)」
「一体型ウェザーステーション」

今回使用したスペースXの衛星ブロードバンド通信「Starlink」

「Starlink」は、スペースX社が開発した衛星インターネットサービスで、KDDIは2022年10月、Starlinkをそのままインターネットアクセス回線として利用することができる「Starlink Buisiness」の提供を開始。Starlink端末は、空が開けている場所ならどこでも設置可能で、中山間部はもちろん海上でも利用できるため、自然災害対応に適しています。

「Starlink Buisiness」向けのStarlink端末

中電技術コンサルタントさまとKDDIスマートドローンは、広島県内にある砂防において、DJI社製のドローンドック「DJI Dock」と、KDDIが提供する衛星ブロードバンド通信「Starlink」を組合せて活用することで、巡視点検の遠隔管理を実現し、高度化を図る実証実験を行いました。今回は、本実証の詳細と、「DJI Dock×Starlink」活用方法についてレポートします。

砂防の巡視点検でドローンを活用するメリット

本実証は、中電技術コンサルタントさまがこれまでも、実際の点検業務でドローンを活用してきた砂防堰堤で実施しました。この場所はかつて、集中豪雨によって大規模な土砂災害が発生し、公共の防災事業として砂防堰堤が整備されたところだそうです。

本実証を実施した砂防堰堤

上空から撮影した現場の写真を見ると、土砂が谷の底に溜まっている土や石を巻き込みながら流れたために樹木が生えていない部分が、白い筋状に見えます。

こうした谷の出口付近に整備された砂防堰堤は、山の麓にある民家を守る最後の砦になっています。中電技術コンサルタントさまは、雨が降るたびに巡視点検を行ったり、土砂が溜まれば除去したりと、維持管理業務に従事しているそうです。

上空から撮影した現場の様子

従来は、雨が降るたびに調査員が現地に行って、土砂が出ていないかを確認して、調査が終わったら次の場所に移動する、という方法で調査を行っていました。雨で足場の悪いなか、安全を確保しながら歩いて調査するため、二次災害の危険性が極めて高く、大変な時間がかかるという課題がありました。

そこで、中電技術コンサルタントさまは、10年以上前からドローンの利活用を進めています。同社 上席執行役員 先進技術センター長の荒木義則氏に、ドローン活用の利点を伺いました。

中電技術コンサルタントの荒木義則氏

「人間が行って調査する場合は、限界はありません。山の上でも行きます。実際に私も行っていました。ただ、やはり災害時の調査や点検では、安全性の確保と調査の迅速性が求められるので、ドローンはそういう点で極めて有効なツールです。さらなる利点は、ドローンを使った連続写真の撮影によって、オルソ画像の作成と三次元データに基づいた計測が可能になるという点です。崩落前後の差分解析を行うことで、崩落場所の面積、発生した土砂量、さらなる崩落危険性の有無などを正確に把握できます。これは、人間の作業の代替や安全の確保だけではない、新たな付加価値だと考えています」(中電技術コンサルタント 荒木氏)

「DJI Dock × Starlink」導入の狙い

こうした差分解析に用いるための現況の三次元データは、すでに随分整備できたそうですが、長らくドローン活用を進めるなかで、新たな課題を無視できなくなったといいます。それは、大きくは「人員体制」と「通信環境」の2つです。

1つめの「人員体制」について、荒木氏は「どこでどんな災害が起きるかは、計画できない」と指摘します。

「あらかじめ決まったことであれば、ドローンを運用できる部隊を計画的に配備できますが、有事の際は往々にして、同時多発的に災害が起きるため、計画を立てることは難しいです。さらに、最近では人口減少に伴って、担い手不足の問題も顕在化しつつあります。そこで、DJI Dockのような遠隔操作で全自動可能なシステムがあれば、省人化を図り、何が起きても迅速に対応できる体制を普段から整えられると考えました」(中電技術コンサルタント 荒木氏)

「DJI Dock」と「Matrice 30T(Dock版)」

2つめの「通信環境」について、荒木氏は「ここは5GもLTEも使えるのだが」と前置きしつつ、中山間部の現状に言及しました。

「砂防は、山の中にあるため、インターネットにアクセスできない現場が少なくありません。KDDIさんが提供するDJI DOCK×Starlinkを利用することで、砂防点検現場における通信環境を改善し、ドローン運用の効率性向上につながると考えました」(中電技術コンサルタント 荒木氏)

KDDIスマートドローンが設置した「Starlink Buisiness」用Starlink端末と、小川氏

本実証は、中電技術コンサルタントさまより、DJI Dock販売代理店であり、Starlinkの設置とドローン運用において数々の実績を持つKDDIスマートドローンにお声かけいただき、共同で実施いたしました。KDDIスマートドローン 事業企画部 部長の小川兼治氏は、本実証の意義をこのように述べています。

「DJI Dockのように、遠隔で管理できるドローンドックと、KDDIが提供する衛星ブロードバンド通信Starlinkを組み合わせて使うことで、山間部など通信確保が難しいエリアでも遠隔巡視が可能となり、点検の自動化、省人化が可能になります。これが本実証の大きな意義だと考えています」(KDDIスマートドローン 小川氏)

「DJI Dock」を設置するKDDIスマートドローンのメンバー

「DJI Dock × Starlink」活用の手順

では、本実証におけるDJI DockとStarlinkの活用の手順をご紹介します。最初に、DJI DockとStarlink端末の設置場所を決めます。

DJI Dockの重量は105kg。サイズは閉じた状態で、横幅800mm×縦幅885mm×高さ1,065mm(開いた状態では横幅1,675mm×縦幅885mm×高さ735mm)なので、成人男性が4名いれば運ぶことが可能です。

今回も、設置場所の近くまではハイエースで運び、車から下ろして電源とStarlinkに接続しました。現場到着後、約2時間でセットアップが完了しました。

手前は「DJI Dock」、奥はオペレーションセンター
「DJI Dock」と「Matrice 30T(Dock版)」

DJIの定めによるとDJI Dockは、傾斜5度以下の場所にあるコンクリート上への設置が推奨されています。また、電源を供給する必要があるため、今回は移動電源車(発電車)を用いました。常設する場合は、電源工事を考慮する必要があります。(最大入力電力は1,500W)

左は移動電源車(発電車)、右は「DJI Dock」

 

すでに4,000機(*)を超える低軌道周回衛星が打ち上げられているStarlinkは、従来の静止衛星を用いた衛星通信サービスに比べて、高速かつ低遅延のデータ通信が可能です。(*2023年10月末現在)

Starlink端末を設置したら、通信速度をチェックします。連日平均的に、下り300Mbps、上り20Mbpsという速度を実現して、途中で通信が途絶する、大幅に遅延するといったトラブルなく、実証を進めることができました。

通信チェック

次に、「DJI FlightHub 2」というGCS(Ground Control System)を用いて、飛行ルートを作成します。DJI FlightHub 2は、DJI DockとMatrice 30T(dock版)を遠隔一元管理できるクラウドシステムです。

標準搭載された三次元地図上に、パソコンのキーボード操作でウェイポイントを打てるので、ドローン操縦技能が高くない人でも、比較的容易に飛行ルートを作成できます。

「DJI FlightHub 2」で飛行ルートを作成

さらに、飛行ルート作成時に、カメラジンバルの向きやズームなどもパソコン上で操作し、画角を設定できるため、ドローンを実際に飛ばすことなく、非常にハイレベルな飛行ミッションを組むことができるのです。

「DJI FlightHub 2」で画角設定

三次元地図上で飛行ルート作成が完了したら、問題ないかを再度確認したうえで、飛行開始ボタンを押します。DJI Dockが開いて、機体が離陸、自動飛行、自動撮影して、全ミッションが完了すると自動で戻ってきます。

機体の離着陸
ポートの開閉

着陸後、DJI Dockが閉じると、機体への充電が開始されて、取得データがインターネット(今回はStarlink)経由で、クラウド上にあるDJI FlightHub 2に自動でアップロードされます。

なお、DJI DockはIP55、Starlink端末はIP56に準拠しており、多少の雨天候なら運用可能です。

機体に2箇所ある充電差し込み口

本実証の取り組み内容と、実証できたこと

本実証では、DJI Dock設置場所から約10m離れたところに、オペレーションセンターを設置して、DJI FlightHub 2を用いた飛行指示、遠隔監視を行いました。

白いテントがオペレーションセンター
オペレーションセンターの機体監視員のKDDIスマートドローン定森氏

DJI FlightHub 2で飛行ミッションの進捗を確認しながら、同時に機体を目視でも確認し、予め設定した飛行ルート通りに問題なく安全に飛行しているかの確認も行いました。

ドック近くで機体の目視確認を行うKDDIスマートドローン小川氏

今回は、実証機であるMatrice 30T(Dock版)のほかに、実証記録用にMavic 3を同時に飛行させて、DJI FlightHub 2で一元管理できることも確認できました。

DJI FlightHub 2画面(2機体の映像を一元管理)

今回の飛行ミッションの距離は1.6km、飛行時間は3分40秒。Dock開閉時間なども含めると、1回のミッションは約5分でした。

満充電で約30-40分の撮影が可能であり、飛行後の充電は約25分で完了します(10%から90%まで充電)

また、「建設技術フォーラム inちゅうごく」に出展した中電技術コンサルタントさまのブースでは、外部モニターにDJI FlightHub 2を表示して、本実証のライブ中継配信を実施しました。

中電コンサルタントさまの出展ブースで説明するKDDIスマートドローン貴島氏

「せっかくの建設技術フェアなので、機材をお見せするだけではなく、遠隔で点検する様子をライブでお見せして、実際にどうなるのかを皆さまにもご確認いただきたいと思って、今回企画いたしました」(中電技術コンサルタント 荒木さま)

荒木さまたちのお手伝いとして、KDDIスマートドローンのメンバーも常駐し、多くの来場者への説明を行い、皆さまから「こういう時代が来たんだな」「非常にいい」という感想をいただきました。

ハード・ソフト・通信の3本柱で「遠隔巡視ソリューション」確立を目指

最後に、本実証に対する所感と今後の展開について、中電技術コンサルタントの荒木さまにコメントをいただきました。

「雨が降ったら一定規模を決まって調査・点検しないといけない、今回の実証場所のようなところにこそ、DJI Dockを常設することでかなり効率化できると、改めて有効性を確認できました。ただ、雨天候でカメラレンズが濡れると、オルソ画像作成に耐えうるデータ取得は難しいかもしれないですね。でも、雨が降り続いているときには、二次災害の危険性が極めて高く、現場に近づくこともできませんので、多少雨滴がつこうが、状況を確認できるだけでも、すごく価値があると思います。本実証で技術的な確認はできたので、今後も実際の導入、運用、人材育成について、検討を進めていきたいと思います」(中電技術コンサルタント 荒木さま)

本実証を通じて、DJI Dockは、人間が行くことが容易ではない場所に置くことで、活用メリットが最大化されやすいことが分かりました。

しかし、そうした場所では、電力や通信の確保が困難なことが多いため、有事の際でもドックの安全を確保でき、電源工事を含めてアクセスしやすい場所に設置する、通信をしっかりと確保する、などのさまざまな知見が求められます。

KDDIスマートドローンの小川氏は、今後の展開について、このように話しています。

「KDDIスマートドローンは、ハード、ソフト、通信の3本柱が揃ったときにソリューションになると考え、G6.0 & NESTやSkydio Dockなど、さまざまなハードウェアの運用に取り組んできました。さらに、この1年間では、従来の上空電波利用に加え、モバイル通信と衛星通信Starlinkを組み合わせた運用実績を積み重ねています。また、ソフトウェアに関しても、鉄塔点検AIや橋梁点検AIなど、データマネジメントサービスも強化しており、データ取得後の解析についても、協働できる体制を整えています。DJI DockやSkydio Dockは、まさに遠隔無人を実現する次世代のソリューションです。今後もぜひ、様々な大規模設備、インフラをお持ちの企業さまや自治体さまと共同で、遠隔巡視ソリューション確立に向けた取り組みを実施できればと考えています」(KDDIスマートドローン 小川氏)

DJI DockやSkydio Dockは、衛星ブロードバンド通信Starlinkとの親和性が、非常に高いプロダクトです。

これからも、KDDIスマートドローンは、ハード、ソフト、通信の3本柱で、通信インフラを担うKDDIグループのアセットを最大限活用しながら、インフラ・設備の長寿化メンテナンスにおける現場の想いを叶えられるよう、取り組んでまいります。