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つくば市でレベル4飛行を想定した検体輸送の実証実施 〜人流データを活用し、安全な飛行ルートを設計〜
KDDIスマートドローンは、2023年11月20日〜12月4日、「スーパーシティ型国家戦略特区」に指定されている茨城県つくば市の協力のもと、近隣の医療機関から実際の検体を回収して、検査機関に輸送する実証実験を行いました。
本実証は、KDDIが内閣府から受託した「先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」の一環で、2022年度「ドローンによる検体輸送」実証実験を踏襲した取り組みです。複数の医療機関を経由して実際の検体を輸送する実証としては、日本初(※自社調べ)の事例となります。
将来的には、レベル4飛行による事業化を予定していることから、2023年度の本取り組みでは、KDDIが保有する人流データを活用し、地上リスクの定量的な評価を行ったうえで、より安全な運航体制を構築する取り組みもしました。今回は、実証の内容と成果についてご紹介します。
本実証の実施概要
- 実施期間:2023年11月20日〜12月4日
- 実施場所:「東西医学統合医療センター」〜「つくば消化器・内視鏡クリニック」〜「つくばi-Laboratory」(片道約1.1km)
- 使用機体:「AirTruck」(ACSL製)
- 運航管理:KDDIスマートドローンツールズ運航管理システム
目次
レベル4飛行を想定、「人流データ」を活用した地上リスク評価
つくば市におけるレベル4飛行を想定したドローンの実証実験は、2022年度から2年連続の取り組みとなりました。
2022年度は、「PCR検体に模した液体をドローンに搭載し、筑波メディカルセンター病院からi-Laboratoryへ片道約300mを輸送する」という内容でしたが、2023年度の実証では「航行距離を伸ばしつつ、かつ安全運航体制を構築する」ことを念頭に置いています。
ドローンの飛行手順は右の通りです。最初に、検査機関である「つくばi-Laboratory(以下、i-Labo)」からドローンが飛び立ちます。1か所目の「東西医学統合医療センター」に着陸して、その日に採取された検体を回収し、そのまま2か所目の「つくば消化器・内視鏡クリニック」を経由して、同じく検体を回収してから、再びi-Laboに帰還する。この一連の飛行を、KDDIスマートドローンの遠隔運航管理システムを用いた自動飛行で行いました。
主な検証項目は、振動と温度管理です。PCR検体に模した液体を、筑波メディカルセンター病院で受け取り、病院側からご提供いただいた専用の箱に入れて、ドローンで安全に輸送する長期運航検証を行いました。また、PCR検体と血液検体を、ドローンに積載し一定時間ホバリングさせたものを検査し、ドローンによる検体輸送の品質に与える影響についても検証を行いました。
輸送したのは、医療機関でその日採取されたばかりの本物の血液検体です。
飛行ルートの設計において、特に注意したポイントは2つあります。
1つは、航行距離片道約1.1km、出発から帰還までの飛行時間は合計約8分と、2022年度実施時と比べて距離が約5倍に延伸したこと。もう1つは、将来的なレベル4飛行によるサービス実装を目指し、道路の横断を含む市街地上空を飛行するということです。
そこで、基本的には筑波大学付属病院の敷地内にある森の上空を、立入管理措置を講じたうえで飛行するルートを選択し、道路の横断など無人地帯の確保に注意が必要な場所には、約10名の補助員を配置して、2022年度同様にレベル2飛行で実施しました。
「人流データ」は、飛行ルート設計時の地上リスク評価において、安全性を向上する目的で活用しました。使用したツールは、KDDIが提供している商圏分析・位置情報分析ツール「KDDI Location Analyzer」です。
「KDDI Location Analyzer」は、auスマートフォンから得られるGPSの位置情報/属性(性別・年代)情報を基にする(※)GIS(地図情報システム)です。今回は、飛行ルートに該当するエリアの、人口密度や時間帯別傾向の把握に用いました。
(※)お客さまから同意を得たauスマートフォンの端末から取得しています。詳細はホームページ(https://k-locationdata.kddi.com/?msclkid=55cba5444cb81b5ef7b3c188c0d5813d)をご参照ください。
例えば、飛行エリア内の人口密度を、メッシュ分解能125m四方で可視化することによって、地上リスク度合いを定量的に見積もることができ、より安全な飛行ルートを選択することが可能になります。
また、特定の場所における時間帯別の通行人の量も参照でき、「できるだけ人が少ない時間帯にドローンを飛行させよう」など、運航スケジュール計画時にも役立ちました。
「KDDI Location Analyzer」による人流データの活用は、実際に現地調査を行う前に、人口密度が低いエリアと時間の目安を把握できるという点で、地上リスク低減させた飛行ルート設計をする上で有効であると確認できました。
「ドローンによる検体輸送」ワークフロー全体の検証と成果
2023年度の実証は、「ドローンによる検体輸送」ワークフロー全体の検証を目的としています。主なトピックスは、「本物の検体を輸送」したこと、「1フライトで複数の医療機関を経由し検体を回収」したことの2つです。
「本物の検体輸送」においては、検体配送に関するガイドラインを参照し、またドローン飛行における危険物輸送に対応する適切な輸送方法を検討し実証実験を行いました。
検体は感染物質でもあるため、厳重管理が求められます。今回の実証においては、万が一、採血管が破損しても周囲に飛び散らないよう、吸収剤で保護し、さらに密閉するという、三重梱包にしました。そして、輸送用外装容器のバリアボックスに収納しました。
バリアボックスの総重量を測り、保冷剤と温度ロガーを同梱した保温ケースに入れて、さらにドローン専用箱に収納して輸送しました。
飛行申請においても、輸送中に異常事態で機体が落下するなどして、検体が周囲に飛び散るリスクに備え、補助員が塩素酸消毒液を常備して有事の際はそれを用いて消毒対応を速やかに行う、という安全管理体制を整えたうえで、航空局に危険物搬送の飛行申請を行っています。
ドローン輸送による振動が検体の品質に与える影響については、2022年度の実証実験で影響ないことが検証されています。2023年度は使用機体を変更しましたがドローンの機体による振動はより軽減されており検体への影響はないものと考えられます。
現在の検体配送では、紙などを用いて検体の授受管理が行われています。一連の検体輸送のワークフローを検証するため、実証実験では簡易な「配送記録アプリ」を作成して、運用を行いました。
本実証は、「ドローンが複数の医療機関を周回して検体を回収し検査センターまで輸送する」という、一連のサービス内容の検証を実施しています。
本実証で得られた知見や、医療関係者による評価は、ドローンによる検体輸送の社会実装に向けたサービス面や運用面における課題検証に活用していく予定です。
医療機関からの声、今後の展望
最後に、本実証に協力いただいた医療機関の医師、臨床検査技師の方々からいただいた意見も紹介します。
まず、検体回収の現状をお伺いすると、大学病院以外の医療機関においては、「1日1回しか回収されていない」ところがほとんどだそうです。大学病院内では、1日に数回の定期回収トラフィックがあるため、「大学並みの速さで結果データがほしい」というのは、近隣の医療機関共通の願いであるということでした。
また、定期回収トラフィックは、人が歩いて回収に周っているため、「定期回収の直後に検体の採取があると、次の回収まで待たなければならない」「悪天候のなか来てもらったのに検体がないこともある」など、非効率や申し訳なさを指摘する声もありました。
一方で、実運用を目指すにあたり懸念点としては、「輸送時の品質管理」「取り違え防止」「紛失や破損によるリスクや、再検査の発生」「悪天候でのドローン欠航」などが挙げられています。また、ドローン運航の現場においても、ドローン輸送に適した軽量かつ堅牢な収納箱の開発や、離着陸場所の確保、レベル2や3での飛行においては道路の混雑状況による定期運航のハードルなど、さまざまな課題が浮き彫りになっています。
しかし、「複数の医療機関の検体が、ドローンに乗合できれば、利用したいという医療機関は多いのではないか」という意見も出るなど、「ドローンによる検体輸送」に対する、つくば市の医療現場の期待は非常に高いといえます。
KDDIスマートドローンは、つくば市における「ドローンにより検体輸送」の定期運航、臨時運航、そしてオンデマンド運航という願いを叶えるため、今後も事業化に向けた検討を進めてまいります。
<本実証の協力機関>