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つくば市でレベル4飛行を想定したドローン・ロボット配送を実施  ~国内初、XRでドローンの「空の道」を可視化~

実証事例:茨城県つくば市様

2022年4月の茨城県つくば市「スーパーシティ型国家戦略特区」指定を契機に、KDDIスマートドローンは、KDDI、ティアフォー、Psychic VR Labと4社共同で、KDDIが内閣府から受託した「先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」の一環として、つくば市さまの協力のもと実証を実施しました。

2023年1月〜2月には、ドローンによるPCR検体を模した物資を輸送し、さらにXR(クロスリアリティ)による地域住民の方々向けのドローンの「空の道」を可視化。また、ドローンと自動配送ロボットを連携した「フードデリバリー」の長期実証を実施しました。今回は、本実証におけるドローン領域のプロジェクトリーダーであるKDDIスマートドローン貴島氏のコメントも交えながら、実証の内容をご紹介します。

「即時性」が求められるPCR検体輸送

2022年12月5日に施行された改正航空法でレベル4飛行が可能となり、都市部におけるドローンの利活用に期待が高まっています。本実証では、将来的なレベル4飛行を想定し、つくば市街地において約1ヶ月にわたり、筑波メディカルセンター病院からつくばi-Laboratoryまで、PCR検体に模した液体をドローンで輸送しました。

本実証の実施概要

  • 実施期間:2023年1月19日〜2月27日
  • 実施場所:「筑波メディカルセンター病院」〜「つくばi-Laboratory」(片道約300m)
  • 使用機体:「PF2-LTE」(ACSL製)
  • 運航管理:KDDIスマートドローンツールズ運航管理システム
「PF2-LTE」

主な検証項目は、振動と温度管理です。PCR検体に模した液体を、筑波メディカルセンター病院で受け取り、病院側からご提供いただいた専用の箱に入れて、ドローンで安全に輸送する長期運航検証を行いました。また、PCR検体と血液検体を、ドローンに積載し一定時間ホバリングさせたものを検査し、ドローンによる検体輸送の品質に与える影響についても検証を行いました。

PCR検体を受け取った筑波メディカルセンター内
PCR検体を受け取った筑波メディカルセンター病院内

使用した機体は、ACSL製の「PF2-LTE」です。検体は1本あたりの重量が小さく、1回の飛行で数十本を輸送したとしても、同機搭載重量の1.5kg以内に収まります。都市部での運用は離着陸スペースが限られることや、医療現場の要望としても「一度で大量に」というより「即時性高く」運べることのほうが需要は高いことなどから、比較的小型の同機を用いました。飛行距離は、筑波メディカルセンター病院の屋上から、つくばi-Laboratoryの駐車場まで、片道約300mです。飛行経路はつくば市街地内であり、筑波大学をはじめとする施設や住宅地もあるDID地区に該当するため、レベル2飛行で行いました。

筑波メディカルセンターの屋上からドローンが飛び立ったところ
筑波メディカルセンター病院の屋上からドローンが飛び立ったところ

また、茨城県は北海道に次いで日本全国で2番目に道路が長く、その茨城県の中でもつくば市さまの道路は最長だそうです。「都市と郊外の二極化」が進むなか、郊外エリアに住む方々への医療サービス提供は、新たな社会課題になりつつあります。

郊外にある小規模な診療所に検査機器がない場合には、住民の方々が受診に訪れても検査をすぐにできない、検査結果が出るまでに時間がかかる、などの不便が生じます。また、高齢の方々が免許を返納することになれば、オンラインでの遠隔診療や遠隔服薬指導、処方薬配送などのニーズが高まることも予想されます。

KDDIスマートドローン 貴島氏(左)とプロジェクトメンバーら(筑波メディカルセンター前で撮影)
KDDIスマートドローン 貴島氏(左)とプロジェクトメンバーら(筑波メディカルセンター病院前で撮影)

貴島氏:本実証では、「つくばスーパーサイエンスシティ構想」を推進する筑波大学さまや、筑波大学付属病院さまからも、たくさんアドバイスをいただきました。新たな挑戦に対して、確実に対策を立てながら、一緒に前向きに取り組めたことは、大変有意義だったと思います。本実証を通じて、医療現場の人手不足や、検査をすぐに受けられない住民の方々のお困りなどの現状を深く知ることができたので、今後も地域課題の解決に向けた一助になれるよう、ぜひ一緒に取り組ませていただきたいです。また、本実証を通じて、ビル風やGPS補足数など都市部特有の技術的な課題も明確になりました。将来的には、プロのパイロットでなくても運用可能な体制を組めるよう、さらに配慮しながら開発を進めていきたいと思います。

国内初、XRによる「空の道」可視化

ドローン物流の社会実装の実現には、有人地帯の上空を飛行するにあたり、いかに地域住民の方々の受容性を高めるか、が鍵となります。そこで本実証では、Psychic VR Labと共同で、将来PCR検体輸送を想定している現場において、XRによる「空の道」の可視化にも取り組みました。

本実証の実施概要

  • 実施期間:2023年1月19日〜2月27日
  • 実施場所:「筑波メディカルセンター病院」前にサイネージ設置
  • 使用アプリ:「5G XR VIEWER SATCH X powered by STYLY」
ドローンが「空の道」を移動し、歩行者用信号が変わる様子

従来、事業者側は運航管理システムを通じてドローンの動きを把握できますが、一般の方々が航路を確認する術はありませんでした。本実証では、KDDIが提供する「5G XR VIEWER SATCH X powered by STYLY」(以下 SATCH X)アプリをダウンロードした上で、お手持ちのスマートフォンを所定の場所で空にかざしていただくと、ドローンの飛行ルートがARコンテンツとして表示され、実際にドローンが上空を飛行する際には、機体がARの航路上を移動していく様子を確認できる、というサービスを構築して住民の方々に提供しました。

また、ドローンによるPCR検体輸送の離着陸地点である筑波メディカルセンター病院の前に、同コンテンツを表示できるデジタルサイネージを約1ヶ月間に渡り設置して、スマートフォンをお持ちでない方々も、ドローンが予め決められた飛行ルートを飛ぶ様子を確認できるようにしました。デジタルサイネージにはカメラを搭載されており、実際にドローンが上空を飛行すると、ドローンのリアルな動きがAR表示に重なって映し出されます。ドローンが歩道を横断する際は、歩行者に対して“赤信号”で通知するなど、コミュニケーションも図りました。

筑波メディカルセンター前に設置したデジタルサイネージ
筑波メディカルセンター病院前に設置したデジタルサイネージ

貴島氏:地域住民の方々への周知目的で、ドローンの飛行ルートをXRコンテンツでリアルタイムに可視化する取組は国内初(2023年2月時点)なので、一般の方々がどのような反応をされるのか、まずは確認できればと考えていましたが、「科学技術が地場産業」というつくば市さまのエリア特性もあるためか、実証中には地元の方々からは「分かりやすいね」「すごいね」と、ポジティブなお声かけを多くいただきました。

ドローンと自動配送ロボットの連携で「買い物の不便解消」

「都市と郊外の二極化」という課題を抱えておられるつくば市さまにおいては、郊外に住む方々の買い物の不便を解消することも重要なテーマだと考えています。そこで本実証では、市街地にあるスーパーのお弁当を、ドローンと自動配送ロボットが連携して、個人宅までお届けする「フードデリバリー」の実証も行いました。

本実証の実施概要

  • 実施期間:2022年12月〜2023年2月(個人宅への配送は、2023年2月20日〜21日)
  • 実施場所:「フードスクエアカスミ牛久刈谷店」~「つくば市宝陽台地区の公民館(宝陽台自治会館)」(片道約1.5km)をドローンで輸送、公民館から個人宅までは自動配送ロボットでお届け
  • 使用機体:「PD6B Type3」(プロドローン製)
  • 運航管理システム:KDDIスマードローンツールズ運航管理システム
「PD6B Type3C」
「PD6B Type3」
ドローンが市街地にあるスーパーカスミから飛び立つところ
ドローンが市街地にあるスーパーカスミから飛び立つところ

本実証は、“郊外に住む高齢者の方が、つくば市さまが利用を推奨している医療相談アプリ「LEBER(リーバー)」を使って遠隔診療を受診して、医師からレコメンドされたお弁当をオンライン注文し、市街地にあるスーパーマーケットからドローンと自動配送ロボットで届けてもらう”という利用シーンを想定して実施しました。

ドローンが飛来したところ
ドローンが飛来したところ
ドローンが宝陽台自治会館に着陸するところ
ドローンが宝陽台自治会館に着陸するところ
ドローンから荷物を取り出すところ
ドローンから荷物を取り出すところ

使用機体は、プロドローン製の「PD6B Type3C」です。同機体はやや大型で、最大積載重量は30kg、ドローン物流において豊富な実績があります。本実証では、スーパーカスミから宝陽台自治会館まで、遠隔自律飛行するドローンが片道1.5kmを飛行して、お弁当を運びました。着陸後は、ドローンから自動配送ロボットにお弁当を乗せ換えて、個人宅まで自動配送ロボットがお届けしました。

自動配送ロボットへ荷物を乗せ換えるところ
自動配送ロボットへ荷物を乗せ換えるところ
お客さまが、お弁当を取り出しているところ
お客さまが、お弁当を取り出しているところ
自動配送ロボットが歩道を通って宝陽台自治会館へ戻ってきたところ
自動配送ロボットが歩道を通って宝陽台自治会館へ戻ってきたところ

また、将来的にはドローンによる「フードデリバリー」が、複数機体が同時かつ高頻度で往来することを想定し、今回は往路便と復路便を同時に飛行させて、運航管理システムで遠隔制御する実証も行いました。さらに、フードデリバリーとPCR検体輸送という、用途、飛行エリア、飛行ルート、機体も異なる複数運航を、1つの運航管理システムで同時に遠隔制御する実証も行いました。

3機同時運航管理したときの画面

貴島氏:これまでもNEDOさまの案件などで、複数機体の同時運航の実証は行ってきましたが、つくば市さまと一緒に取り組ませていただくことで、技術開発のみならず、レベル4を想定したサービス開発という視点でも、さまざまな検証を行うことができました。ぜひ、今後に活かしていきたいと考えています。

これからもKDDIスマートドローンは、「どこに住んでいても快適な暮らし」を叶えることを目指し、つくば市さまと協働して「つくばスーパーサイエンスシティ構想」および「デジタル田園都市国家構想」の早期実現につなげてまいります。