活用事例
  • 測量
  • 監視

「スマートドローン×Starlink」で、ダム建設現場における無人測量・無人監視が可能に。

導入事例:大林組様

今回使用したドローン「G6.0 & NEST」

「G6.0 & NEST」は、自動充電ポート付きのドローンで、モバイル通信を用いた運航管理システムで制御することにより、遠隔地からポートの開閉、ドローンの離発着、自律飛行が可能となります。離発着所に人を派遣せずとも、遠隔操作でのドローン運航が可能となることから、さまざまな建設現場での活躍が期待できます。

自動充電ポート付きドローン「G6.0&NEST」
自動充電ポート付きドローン「G6.0 & NEST」

今回使用したスペースXの衛星ブロードバンド通信「Starlink」

「Starlink」は、スペースX社が開発した衛星インターネットサービスで、KDDIは2022年12月、Starlinkをバックホール回線としたauエリア構築ソリューション「Satellite Mobile Link」(Starlink基地局)の提供を開始。Starlink基地局を設置することで、山間部や島しょ地域などの弱電界エリアにおいてもauの高速通信によるドローン飛行・遠隔操作が可能になります。

Starlink基地局(川上ダム左岸天端にて撮影)
Starlink基地局(川上ダム左岸天端にて撮影)

大林組さまとKDDIスマートドローンは、ドローンやAI、IoTなどを活用し、建設現場における生産性向上を実現するための技術開発に共同で取り組んでいます。川上ダム本体建設工事(三重県伊賀市)では、衛星ブロードバンド通信「Starlink」を活用してドローンの遠隔運航管理を行い、無人監視および無人測量の実証を実施しました。今回は、大林組 川上ダムJV工事事務所 副所長の小俣光弘さまと、KDDIスマートドローンの山崎颯氏の2名にお話を伺いました。

なお本実証は、国土交通省が募集した官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM(プリズム))に提案し、2022年9月10日に採択されたことを受けて実施したものです。

「ドローン運航の完全無人化」を目指したい

5年前、2017年に建設工事契約が成立した川上ダムは、2019年9月に本体のコンクリート打設を開始、2021年4月に打設を完了しました。現在は、実際に水を貯める試験湛水と、天端の公園エリア整備工事などを行なっており、2023年3月の完成予定です。

しかし、川上ダム建設の話が持ち上がったのは、約30年も前のこと。川上ダムJV工事事務所 副所長の小俣光弘さまは、「ダム建設予定地から移住した方々も含めて、早く完成させてほしいという地元の想いは強かった」と、5年前の工事開始を振り返ります。

そんななか、川上ダムは本体打設完成を1年半強という、中規模ダムとしては国内最速級のスピードを実現しました。背景にあるのは、大林組さまが進めて来られたダム情報化施工技術「ODICT®︎の推進です。

既存のダム施工に関するノウハウに加えて、ドローン写真測量はもちろん、調査・設計・施工の情報を3次元モデルに集約して施工プロセスの可視化を図る情報管理ツールCIM(Construction Information Modeling/Management)の導入、建設機械の操縦席にあるモニターにガイド機能を搭載してオペレータの操作を支援するマシンガイダンスやマシンコントロール、建設機械をIoT化した遠隔からの自動・自律運転など、20以上の最新技術の開発と実用化を進め、「施工のオートメーション化」を目指していらっしゃいます。

川上ダム建設工事の監理技術者として現場のDXをリードしている小俣光弘さま
川上ダム建設工事の監理技術者として現場のDXをリードしている小俣光弘さま

小俣さま:「川上ダムの建設では、最終的に維持管理用のCIMに施工データを残すことが入札条件だったこともあって、建設開始当時から、ドローン写真測量をマニュアル操縦で行なっていたので、ドローンの利便性は承知していました。ですから次は、専門のオペレーターさんがいなくてもできる状態を作って、完全無人化していきたいと考えるようになりました」

「ドローンと通信の補完」は必要不可欠

しかし、「無人化するなら、飛行できないエリアを無くさなければ、結局は余計にコストがかかってしまう」と、小俣さま。山奥まで延びるダムの貯水池全域を飛ばそうとしたとき、いわゆる「弱電界エリア」があって飛ばせない、と新たな課題が明確になったといいます。

川上ダムは、貯水池左側には前深瀬川、貯水池右側には川上川があります。両川を山奥に進むとモバイル通信が途切れてしまい、ドローンによる無人測量と無人監視を実現するためには、通信の改善が不可欠だったのです。

本実証のフライトエリア全体図
本実証のフライトエリア全体図
貯水池が左右に延びている様子(ドローンポート付近にて撮影)
貯水池が左右に延びている様子(ドローンポート付近にて撮影)

小俣さま:建設DXは働き方の改革なので、建設機械の自動化・自律化だけでなく、現場管理の効率化も重要なテーマです。我々は、デジタルツインの世界で建機や作業員の情報を集約して、データ解析を行うCPS(Cyber Physical System)も開発中で、ドローンはそのための目となるツールとして重要な役割を担います。「通信の課題を解消してドローンの完全無人化を実現したい」と、KDDIスマートドローンの山崎さん、上司の杉田さんにご相談しました。何回もお会いするなかで、こう聞いたことはいまでも忘れられません。

“スマホの通信が、新幹線で移動中でもつながるのは、ハード側をきちんと設定しているから。それと同じようにドローンも、機体ごとに通信という観点でチューニングすることによって、安定した飛行に繋がっていく。”

我々が切望する「測量と監視の完全無人化」は、KDDIスマートドローンさんとなら実現できると確信しました。

KDDIスマートドローン株式会社 山崎颯氏
KDDIスマートドローン株式会社 山崎颯氏

山崎氏:まさに、私たちKDDIスマートドローンが市場に対して訴えかけてきた“ドローンの目視外飛行にはモバイル通信が必要で、そのためにはただ単純に接続するだけではなく、運航管理システムや、適切に通信できるハード側の対処が不可欠であり、当社はそのための技術を磨いてきた”ということが、小俣さまにしっかり伝わったのだと感じ、すごく嬉しかったです。

「G6.0 & NEST」飛行前後の閉まった状態。右は、ドローンポートに接続された気象計
「G6.0 & NEST」飛行前後の閉まった状態。右は、ドローンポートに接続された気象計

ダム建設現場での目視外無人飛行(レベル3)を実現

大林組さまとKDDIスマートドローンは、建設業の生産性向上に資する取組をともに加速することを目指して、国土交通省が募集した官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM(プリズム))に提案し、2022年9月10日に採択されました。そして、下記のとおり実証を実施いたしました。

本実証の実施概要

  1. 目視外無人飛行(レベル3)によるダム貯水池内の撮影を行う。
    • 実施期間:2週間。2023年1月30日(月)〜2023年2月10日(金)
    • 飛行頻度:平日毎日午前10時〜16時半の間、1.5時間毎に1回飛行。
  2. 地震発生を想定した緊急時飛行を任意のタイミングで行う。
  3. ドローンが取得した画像データを自動でクラウドサーバーへアップロードおよび解析を行う。(点群化・オルソ画像化、差分検出、AI出来高判定)
本実証のシステムフロー全体図
本実証のシステムフロー全体図

まず、実証開始前に、右岸天端にドローンポート、左岸天端にモバイル通信を補完するためのStarlink基地局を設置しました。機体とドローンポートは、auのモバイル通信を介してKDDIスマートドローン運航管理システムと常時接続されるため、日本全国どこからでもauがつながる場所であれば、遠隔運航管理が可能になります。今回は、仮設ハウスにオペレーターが常駐して、運航管理を行っています。

実運用の際は毎朝、1.5時間毎に1回の当日全飛行を予約する運用を想定しています。定刻になると自動でドローンの飛行準備が始まり、オペレーターが「飛行開始」ボタンを押すだけで、飛行が開始されます。

また、今回は気象計をドローンポートに常時接続して、気象予測の精度を高める試みも行いました。飛行予約時に雨や強風などの悪天候予測を検知した場合には、アラートが上がるシステムを組んでおいて、オペレーターの飛行可否判断を支援しました。

朝の定例会の様子(ドローンポートにて撮影)
朝の定例会の様子(ドローンポートにて撮影)

山崎氏:大林組さまからは、測量、監視など、マルチタスクできる機体がほしい、1回の飛行で右岸と左岸を全てカバーしたいなど、さまざまなリクエストをいただきましたが、最重要テーマだったのはやはり目視外自動飛行(レベル3)の“完全なる無人化”でした。そこで、Starlinkを活用しauのモバイル通信を常時捕捉して飛行できるよう、技術的な調整を施しました。

また、左岸の奥には橋があります。実際にはほぼ誰も通行しないのですが、現行の航空法では監視のための補助者を設置しなければなりません。関係各所と何度もやり取りさせていただいて、監視用のカメラ設置、注意喚起の看板など、安全確保対策をきちんと講じることで、無事に承認をいただきレベル3*で運航しています。

*レベル3:無人地帯における補助者なしの目視外自動飛行

KDDIスマートドローンツールズ運航管理システムの画面
KDDIスマートドローンツールズ運航管理システムの画面

こうした平常時の定期運航のほかに、10日間の実証期間中には、地震発生を想定した緊急時飛行を任意のタイミングで行うという実証も実施しました。

ダム堤体内部の通路(監査廊)に設置してある地震計が地震を検知し、大林組さまのCPSがそれを受信したことを想定して、任意のタイミングで地震検知情報をシステム上送信しました。それをトリガーとし、CPSに予めプログラムしてある地震発生時用の緊急時飛行ミッションを、KDDIスマートドローン運航管理システムに送り、そのコマンドを受けて遠隔地にいるオペレーターが飛行開始ボタンを押すと、ドローンが自動で飛行し画像を取得して帰還するという、一連のフローが円滑に遂行されることを確認できました。

大林組さまのCPSの画面。緊急時飛行ミッションを、KDDIスマートドローン運航管理システムへ送信したところ
大林組さまのCPSの画面。緊急時飛行ミッションを、KDDIスマートドローン運航管理システムへ送信

小俣さま:当社のCPSとKDDIスマートドローン運航管理システムをAPI連携できたことも、本実証の大きな成果です。ドローンが撮影した画像データは、自動でKDDIさんのクラウドサーバーにアップロード、点群化などの処理も施されたうえで、当社CPSにデータ登録されます。従来、ドローンの操縦や取得データの処理など、人の手を介さざるを得なかった作業についても、これで無人化できると実証できたので、今回行なった差分検知などのほかにも、今後さまざまな用途でドローンの取得データ活用し、建設DXを前進したいと考えています。

「スマートドローン×Starlink」で、ダム奥地でも飛行可能に

このような無人化を支えたのが、KDDIが提供するStarlinkを活用したauエリア構築ソリューション「Satellite Mobile Link」(Starlink基地局)です。ダム建設現場をはじめとする山間部、島しょ地域などには、弱電界と呼ばれるモバイル通信が繋がりにくいエリアが多く存在しますが、本実証でのStarlink活用は、これまでは弱電界のため飛行できないと思われていたエリアにおいても、auモバイル通信によるドローン飛行・遠隔操作が可能になることを示した好事例です。

弱電界エリアにおけるドローン×Starlink活用のイメージ

本実証では、Starlink基地局を1基、左岸天端に設置しました。このためドローンは、弱電界エリアに差しかかってもStarlink基地局からの電波を捕捉して、飛び続けることができるのです。

山崎氏:スマホなどの移動体は、通話や通信をしながら交信する基地局を、自動的かつ瞬間的に切り替えることで、途中で通信が途切れないようにする処理を行なっています。このことを専門用語では、ハンドオーバーと言います。本実証では、Starlink基地局も含めてドローンがハンドオーバーすることで、これまでは電波が届かなくて飛行できないと思われていた貯水池の奥の方まで、無人で飛行することができました。ログを見てみると、実際にいくつかの基地局を切り替えながら運航をしていることが確認できました。

小俣さま:左岸側は往復で約5.2km、右岸側も往復で約4kmの飛距離がありますが、速度10m/sで一部弱電界エリアもハンドオーバーしながら、常時モバイル通信に接続したままで飛行できたという実績は、かなり珍しいのではないでしょうか。これまでモバイル通信エリア外で無人化できていなかったエリアも含めて、ドローンを飛ばすことができ、さらに両社のシステムをAPI連携できるということを、物理的に実証できたことはものすごく大きな成果です。

両社で拓く、ドローンによる無人測量・無人監視の展望

本実証では、差分検知のほかにも、両天端の工事進捗の確認、AIを活用した画像判定など、データ取得後の活用についてもさまざまな可能性を探りました。PRISMの成果発表は2023年内を予定していますが、当社が受託する研究開発案件の成果とも連携を図りながら、複数機体の同時運航や都市部での運用なども目指す予定です。

今後も、大林組さまとKDDIスマートドローンは、本実証の成果を建設業界全体のナレッジとして役立てられるよう、協業を進めてまいります。

小俣さま:本実証を通じて「建設現場における無人でのドローン測量、ドローン監視」を実現できることが分かったので、CIMや同時並行で開発中のCPSといった各種システムとのAPI連携についても、技術開発を進めていきたいです。例えば、ドローンを無人で遠隔から運用してデータ取得頻度を上げつつ、取得データをシームレスに取り込むことができれば、デジタルツインで現場を遠隔監視するときのリアルタイム性向上や、ビッグデータ解析への活用を期待できます。

いま、インフラ長寿化に向けた施設管理においてもドローン点検が広がりつつありますし、目視点検規制の見直しなどの話もありますが、建設技術と融合しないと実現しないと思うので、総合技術監理の視点でいかに建設DXに貢献していくかが大事なところであり、使命だと思っています。

山崎氏:大林組さまとの取組を通じて、建設業界についてさまざま勉強させていただき、貴重な機会となりました。私たちはドローンのシステムは作れます。けれども、結局それがお客様にとって価値ある使われ方をしないと、意味がありません。例えば、取得データにどれくらいの精度が必要か、どこで圧縮するか、いかに転送するべきかといった時短という観点や、飛行距離の延伸など、今後の課題も見えてきたので、引き続き一緒に取り組ませていただきたいと思っています。

小俣さま:ありがとうございます。確かに、エッジ処理が重要になる部分もありますね。どうすれば時間のロスなく、シームレスに繋がるかを考えるには、お互いに単独だと分からないので、我々としてもぜひ引き続き、意見交換させていただきたいです。