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「Skydio 3D Scan」活用事例|ダム建設現場の法面工事における出来形管理、6割効率アップの可能性!
今回使用したドローン「Skydio 2+」
「Skydio 2+」は、米Skydio(スカイディオ)社の自律飛行ドローンです。上下各3つの魚眼レンズで360°周辺環境を認識し、Visual SLAM技術によって障害物を検知・回避しながら飛行できます。
今回使用したソフトウェア「Skydio 3D Scan」
「Skydio 3D Scan」は、Skydio飛行支援ソフトの1つです。3Dデータ化したい対象構造物の周囲を自律的に飛行し、3Dモデル生成に適した画像を自動撮影する機能があり、オプションの専用アプリケーションとしてご提供しています。
KDDIスマートドローンは、新丸山ダム建設現場での法面(のりめん)工事において、大林組さまと日特建設さまが推進する、空中写真測量(UAV)を用いた出来形管理に自律飛行ドローン「Skydio 2+」を活用する試行を支援いたしました。大林組さまとKDDIスマートドローンは、2022年に官民研究開発投資拡大プログラムPRISM(プリズム)採択をきっかけに、建設現場における生産性向上を目指した技術開発に取り組んでいます。
今回は、新丸山ダム建設工事の元請けとして現場のDXを推進する大林組 生産技術本部 ダム技術部 技術第二課 課長の小俣光弘さま、新丸山ダムでは法面保護工や基礎処理工を担当する日特建設 技術開発本部 知財・戦略部 次長 兼 ICT戦略課長の藤田哲さま、日特建設 技術開発本部 知財・戦略部 ICT戦略課 主任の蔵谷 樹さまと、KDDIスマートドローンの山崎颯氏の4名にお話を伺いました。
目次
ダム建設現場の法面工事におけるドローン活用の背景
最初に、新丸山ダム建設現場におけるドローンの活用状況や、日特建設さまの法面工事の出来形管理におけるドローン活用の背景について、お伺いしました。
「ドローン測量は、建設業では標準的な手法として広がっており、一般的には、大規模な土工事での起工測量や出来形測量として使われています。新丸山ダムでも、起工測量はドローンで行いました」(大林組・小俣さま)
小俣さま:「川上ダムの建設では、最終的に維持管理用のCIMに施工データを残すことが入札条件だったこともあって、建設開始当時から、ドローン写真測量をマニュアル操縦で行なっていたので、ドローンの利便性は承知していました。ですから次は、専門のオペレーターさんがいなくてもできる状態を作って、完全無人化していきたいと考えるようになりました」
「私たちも約8年前から、ドローン測量を導入してきました。法面工事のドローンによる出来形測量は、令和2年に国土交通省から要領(*)が公布される数年前から試行錯誤して、新丸山ダムでも2022年に、コンシューマー向け小型空撮機を活用して、3次元点群データを作成しました」(日特建設・藤田さま)
(*)『空中写真測量(無人航空機)を用いた 出来形管理要領(土工編) (案) 』
https://www.pref.yamagata.jp/documents/18357/22_kyuutyuu-dekigata.pdf
(*)『ICT活用工事(法面工)実施要領 』
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001612888.pdf
法面工事は、「二次元の図面に基づき、山の斜面に施工する」という工事の特性上、計画と実態には必ず差異が生じるといいます。このため、工事後に出来形測量を行うことで、例えば法枠の長さや梁の数など、設計図との差分を物理的に証明し、実際にかかった費用を算出し直す必要があります。
法面工事自体も、法枠工という鉄筋を組み、そこに格子状の網を設置し、モルタルを吹きかけるという一連の作業はほぼ人力で行うそうですが、工事後の出来形測量も含めて、人が山の斜面に登って高所からロープで吊り下げられた状態で行うため、危険が伴います。
このため日特建設さまは、作業の負担を抑え、安全を確保するためにも、早い段階からドローンの活用を進めてきました。最大の利点は「効率性向上」だといいます。
「従来は、計測から図面作成まで全て手作業で、大変な労力がかかっていましたが、ドローンを活用した写真測量で点群データを作ってしまえば、現場じゃなくてもデータ上で計測できるようになります。これは最大のメリットです」(日特建設・藤田さま)
「現地で山の形状に合わせて施工していくと、図面通りにはいかない部分が必ず出てきます。設計変更をコストがかかるからやらないというのはあり得ないので、できるだけ少ない労力で行いたいと思っています。日特建設さんは、早い段階からこうしたデジタル化による効率化を図ってきた、先駆的な専門施工業者さんです」(大林組・小俣さま)
「Skydio 2+」の活用で、測量精度向上と人材育成コスト低減を図る
大林組の小俣さまは、日特建設さまが新丸山ダム建設現場においても、出来形管理にドローンを活用していると聞いて、「Skydio 2+を使ってみては」と閃いたといいます。
「実は、KDDIスマートドローンさんとも協業した川上ダムで、掘削後の岩盤の形状を撮影して、点群データやオルソ画像を作成したのですが、岩盤の掘削は意外と凹凸が多く、真上からの撮影だけだとデータの欠損が出てしまい、斜めからの撮影データを補完し欠損をなくしていった経験がありました。土工事でのドローン活用は、面積が広くて高低差がない場所で、一定の高さで真上から撮影するケースが多いのですが、今後はこうしたさまざまな撮り方が出てくるだろうなと思っていたときに、自律飛行ドローンSkydio 2の存在を知って、川上ダムでの測量で少し試してみたところ、精度に問題ないことが分かりました。そこで、次のステップとしては、法面工事の出来形測量がよいと考えました」(大林組・小俣さま)
というのも、法面工事の出来形測量は手動航行で行っており、測量精度はカメラの解像度だけではなく撮影角度にも依存するため、測量精度がパイロットの技量に依存してしまう、という課題があったのです。
「土工事では自動航行がメインですが、法面工事では両サイドに自然の立木があるため、手動航行にならざるを得ません。衝突しないように気を取られるため、熟練者であってもそれなりに時間がかかりますし、立木がある端部の撮影をおろそかにしたり、無理やり斜めから撮ったりすると、点群化したときの精度が落ちてしまいます。また、途中でラップ率を確認できない不安から多く撮ってしまいがちで、撮りすぎるとデータが重くなり、だからといって少なめに撮ると、点群が希薄になってしまうという、パイロットによる精度のばらつきもありました」(日特建設・藤田さま)
このため、人材をしっかりと育成する必要がありますが、これがドローン導入の障壁になることも少なくないようです。日特建設さまも、法面工事の出来形管理ではドローンを手動で飛ばすため、人材育成には年月を要しました。
「ドローンを飛ばして写真を撮るだけではなく、測量になると3Dモデルの出来栄えを考えて、どうすればよく撮れるのか、理論を学んだり、経験を積まないと分からないこともあります。私も、本当にゼロから始めて、3〜4年かかってパイロットとして仕事をできるようになりました」(日特建設・蔵谷さま)
日々の現場の施工管理業務で手一杯な従業員を、ドローンの熟練者になるまで何年もかけて育てることは、大変な労力がかかります。また、一定程度の技量を満たすまでは、現場はダブルコストになってしまいます。「新技術導入は、短期的には現場負担」となるのも頷けます。
このような中、大林組の小俣さまは、「障害物を検知・回避しながら自律飛行できるSkydio 2+なら、法面工事のような難易度の高い現場でも、手動操縦技能が高いパイロットに限らず、誰もが手軽に運用することが可能になるのではないか」と着眼したそうです。
さらに、「Skydio 3D Scan」機能を活用すれば、「事前に地形や高度に合わせたフライトプランを手動で設定をすることなく、アプリの指示に従って手軽な初期設定をするだけで、高精度な測量写真の自動撮影ができる」というわけです。
大林組さまと日特建設さまからのご相談を受けて、KDDIスマートドローンは「Skydio 2+」と「Skydio 3D Scan」をご提供、運用サポートもさせていただきました。
従来手法との効率性の比較と、「Skydio 3D Scan」使用方法
「正直、驚きましたね」と話すのは、実際に新丸山ダムの現場で、Skydio 2+を飛ばした日特建設・蔵谷さまです。
「実際に立木を含んだ範囲を設定しても、最初はどんどん木のほうに近づいて行ったのですが、きちんと自動で回避して戻ってきてくれて、感動しました」(日特建設・蔵谷さま)
「しかも、我々がプログラミングや設定を行わなくても、ドローン自身がVisual SLAMやAIを使って判断して飛行し、離隔を一定に保ちながら、所定のラップ率を満たして撮影してくれて、もう誰でも使えるのではないかと感じました」(日特建設・藤田さま)
実際に、従来手法とSkydio 2+の作業工数および測量精度を比較すると、Skydio 2+を活用したほうが圧倒的に効率的かつ品質も問題ないということが実証できました。
比較した従来手法は2つあります。1つは、測量、計測、資料作成までを、全て手作業で行うという方法。もう1つは、コンシューマー向け小型空撮機を用いた手動航行によるドローン測量を行い、点群データ化、計測、資料作成を進めるという方法です。
この結果、法面工事の出来形管理における手動航行によるドローン測量を行うことで、法面工事の出来形管理にかかる作業を全て手作業で行った場合と比べて、作業時間を約6割弱程度に削減することが可能で、手動航行からSkydio 2+の自律航行および自動撮影に切り替えることで、さらに約3割の工数削減が可能であると考えられます。
これは、全て手作業の場合とSkydio 2+活用時を比較した場合、作業時間を従来の約6割も削減可能であるという結果で、測量精度も問題ないことが実証できました。
「従来の手動航行と比べると、手間や心理的なハードルが随分なくなり、誰でもできるというところが、大きなポイントだと感じました」(大林組・小俣さま)
「Skydio 2+のほうが、カメラの性能がやや劣っていたため、近接して撮影する分、撮影枚数が増えましたが、機体にお任せしていれば撮れるので、楽だなと思いました。途中でバッテリーが切れると、そこから撮影を再開してくれるのも助かりました。ただ、バッテリー容量を考えると、中小規模の法面工事向きかなと思っています」(日特建設・藤田さま)
「Skydio 2+も、Visual SLAMの仕組みなどを事前に学ぶ必要はありましたが、新丸山ダムでSkydio 2+を使わせていただいた後、別の現場で従来手法の手動航行で測量したとき、そちらのほうが障害物が多くなかなか近寄れない現場だったので、『こここそSkydio 2+を使いたい』と、すぐに思いましたね」(日特建設・蔵谷さま)
Skydio 3D Scanの具体的な操作方法は、まずZ軸飛行範囲を設定します。高さの上限も設定します。
設定完了後は、機体が自律飛行して、撮影対象や周辺環境を調査します。調査後、離隔やラップ率を設定すると、撮影枚数や所要時間の予測が表示されて、自動撮影がスタートします。
“屋外GPS環境下”でも非常に有用 – Skydioの新たな用途開発に向けて
これまでSkydioといえば、橋梁点検や屋内など非GPS環境下での活用イメージが強かったかもしれませんが、今回の大林組さま、日特建設さまとの協業を通じて、“屋外GPS環境下”にも非常に有用なユースケースが隠れていることを、お示しすることができました。
「自分たちだけでは絶対に思いつかないような用途開発を共に進められるのは、当社にとっても大変意義深く感じています」(KDDIスマートドローン・山崎颯氏)
最後に、今後の展開についてもお伺いしました。
「Skydio 2+による作業効率向上とコスト削減を実証でき、費用対効果も感じられました。今後は、通信とドローンの組合せが主流になるかと思いますので、例えばSkydio 2+をDockから遠隔で飛行させて本店にデータを転送するなど、今回のような協業はこれからも模索していきたいと思います。また、ドローンなど新たなツールの活用は、新卒の学生さんにも魅力的なようです。これからも、建設業界の省力化、効率化につながるような研究開発をできたらと思います」(日特建設・藤田さま)
「建設DXは、ただICT技術導入やデジタル化をすれば良いという話ではありません。私も、新たな技術の導入を通じて、若い方たちが本当に頑張っていける土壌や、働きやすい環境を作っていくことが、建設業界にとって非常に重要だと考えています。同時に、幅広く現場とICT技術を把握している我々のような立場の人間が、その声掛けをしていくことも大事だと感じています。いま、業界全体が人手不足ですから、協力会社さんの業務効率化を共に図ることは、結果的に我々が享受できるメリットも大きいと考えます。そのためにも、KDDIスマートドローンさんとの協業を通じて、最新技術の現場実装を引き続き進めていきたいです」(大林組・小俣さま)
「やはり現場と技術の両方が揃わなければ、実装に向けた取り組みはうまく進まないと思うので、今回のような協業は非常にありがたいです。これからも、Skydio 2+に限らず、広く取り組めればと思っています」(KDDIスマートドローン・山崎颯氏)
当社は、Skydio 2+を初めて使うという方々にも分かりやすい講習や、故障や破損で飛ばせなくなったときに新品機体と交換する機体補償保険もご用意しています。今後もKDDIスマートドローンは、現場業務の課題解決に向けた「叶える」を目指して、みなさまに伴走してまいります。