活用事例
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ドローン物流 自治体事例「ゆうあいマーケット」(長野県伊那市)

伊那市では、以前から地域の課題解決にテクノロジーを活用した施策を積極的に取り入れてきました。今回のドローンによる物流事業も、中山間部に住む住民の方々の買い物をサポートする施策として検討が進められ、2018年から実証実験を開始。そして、2020年8月に本格運用がスタートしました。自治体の運用するドローン配送事業は、日本全国で初めての試みです。
今回の取り組みについて、その背景や経緯、展望を伊那市の飯島さまにうかがいました。

実証実験概要

日時:2020年8月〜本格運用開始
場所:長野県伊那市
概要:中山間地域における物流用ドローンの商用利用
使用機体:PD6B-Type3

【背景】人口減少の課題をテクノロジーで解決する

当市に限らず、全国の地方自治体の多くは人口減少、少子高齢化という課題を抱えています。当市の場合、2016年頃からテクノロジーを活用しながら地域の課題を解決していこうという方向に舵を切ったという経緯があります。
経済産業省を中心とした地方版IoT推進ラボ (注1) の選定にも第1弾から手をあげていますが、自治体が自らソリューションを起こしてサービスを運用するという発想は、当初は周囲に大変驚かれました。今回のドローンによる配送事業も、スマート農業やインテリジェント交通などとともに、当市の描いた事業イメージの一つでした。

【課題】買い物サービスで住民にも事業者にもメリットを

市街から離れた中山間地域には、交通や買い物、地域で受けられる医療の面でお困りの方がたくさんいらっしゃいます。こうした皆さんが暮らし続けられる環境を提供していくには、持続可能な仕組みが必要です。そのためには効率性も重要で、買い物に関しては、人件費を使わず目視外自律飛行でダイレクトに商品をお届けできるドローンの活用がいいのではないかということになったわけです。 また、買い物サービスの運用は、いろいろなステークホルダーと協働しながら進めていくことになります。商品を出品していただく地元スーパーマーケットの販路拡大をはじめ、地元経済への貢献にも期待するところがありました。

KDDIなら、自社のLTEで目視外自律飛行を実現できる

当市では、今回のドローンによる物流サービスの構築を「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」と呼んでいるのですが、2018年、プロポーザルで我々がこういうことをやっていきたいとお伝えした時に、最も具体性があり、我々の求めているものと近いご提案をいただいたのがKDDIでした。
また、このシステムのマネジメントをしていく上では、通信キャリアにかなうところはないでしょう。そういった意味で、KDDIが自社の携帯通信ネットワークを用いたスマートドローンの分野ですでに実績をあげていることも強みになったと思います。

ドローンで商品を配達する「ゆうあいマーケット」

「ゆうあいマーケット」は、利用者が自宅のケーブルテレビのリモコンで商品を注文するだけで、その日のうちに自宅 (あるいは最寄りの公民館) で商品を受け取ることのできるサービスです。 ドローンに積めない大型商品や、ドローンの飛べない悪天候の場合には自動車輸送で補完するなど、利用者のニーズに合わせた柔軟なサービスを展開しています。 サービスの利用料は月額1000円のサブスクリプション制。商品購入代金はケーブルテレビの利用料金に加算されて引き落としとなり、キャッシュレスで利用できます。

ネット通販より簡単、しかも早い!

有料のサービスということで、最初は本当に利用していただけるのかなという思いもあったのですが、実際に「家まで持ってきてくれるからありがたい」と言ってくださる利用者さんもいて、お買い物の足に困っている方に喜んでいただけるサービスなのだと改めて感じました。
また、少し意外だったのは、商品を電話注文するのではなく、ケーブルテレビのリモコンを使って注文してこられる方が半数以上いらしたことです。考えてみれば、自宅にあるケーブルテレビを利用しているので、住所や支払い方法などを改めて入力する必要がなく、欲しいものを入力するだけという簡単なステップで注文が完了します。しかも午前中に頼んだら午後には手元に届くスピード感が、便利さを感じていただける要因かなと思っています。

[1] 地域配送拠点で商品を積み込み
[2] 利用者宅の最寄りの公民館まで目視外飛行する
[3] 公民館前では、ボランティアの方が配送拠点と連絡を取り合いながら、現地の安全確認をするなどの受け取り準備をする。
[4] 着陸したドローンから商品をピックアップ。バッテリーの交換、機体の確認を行い。その後利用者宅まで商品を届ける。

今後、ドローンがさらに進化して大容量になっていくと、近くの公民館に利用者さんたちが商品を受け取りに集まり、そこに地域のコミュニティが生まれるようになるかもしれません。また、現在のドローンの飛行地域外でも自然災害などで交通手段が断たれたという話を聞くことがあり、そういう場所にもドローンでものを運んでいくことができるといいと思っています。まだまだ始まったばかりのサービスですが、将来的にはさらに大きく地域に貢献できるようなサービスを目指していきたいですね。

展望】施策の最終目標は住民の幸福度の向上

施策を進める上で肝心なのは、住民の皆さんに使っていただけるかどうかです。単に「いいものを作ったから、どうぞ」というだけでは長続きはしないでしょう。今回の施策では、幸いにして対象地域のケーブルテレビ普及率がほぼ100%ということもあり、お年寄りの皆さんも普段使い慣れたチャンネルを操作するだけでお買い物が完結できる仕組みを作ることができました。
また、我々が最終的に目指すのは、皆さんに満足していただき、住民幸福度をあげていくことですから、そのためにはドローンだけではない、もっと温かみのあるサービスでないといけないという考えもありました。そのため「ゆうあいマーケット」では、ドローンで最寄りまで配送した商品をボランティアさんたちから利用者さんに手渡ししていただいています。こうしたFace to Faceの対応によって、住民の皆さんへの声かけや見守り、安否確認も併せて行っていただくことができています。

予期せぬシナジー効果を実感

そのほかにも、この施策から様々なシナジー効果が生まれています。
例えば、ドローンの飛行ルートは法的な制限を受けるため、可能な限り市内の河川上空を飛行する計画を立てましたが、河川を管理する国土交通省に許可を得ることで、それが国土交通省側のメリットになることもわかりました。ドローンに搭載したカメラ映像を災害時に提供したり、普段の河川のパトロールに活用したりと、Win-Winの関係を築くことができます。こうしたことは、当初の想定にはなかったことです。

そしてもう一つ、ケーブルテレビとドローンを活用し、バーチャルの世界で買い物ができるというソリューションは、これからのwithコロナ時代に適応した新しい買い物の仕組みになっていくということです。 新型コロナウイルスの感染拡大によって、我々の生活も変わらざるを得なくなりました。このような状況下で安全性や不安解消という意味でもこの配送サービスの意義は大きいと思います。

2階建ての構造で民間事業を下支えする

現在の「ゆうあいマーケット」は、地域の配送拠点から公民館などに配送するローカルなものですが、来年度からは10km以上飛行できる機体が導入され、配送の大動脈を整備して核となる集配拠点から地域にルートをつなげていく予定です。

これからは、このサービスを官民協働でどう育てていくのかが重要です。一番の課題はいかに収益化を図っていくかということですが、長期的に持続可能なサービスにしていくために、個人的には当面の間2階建方式で進めていくのが良いのではないかと思っています。最終的には民営化していくことを目指しますが、当初はドローンの機体保守などインフラにかかわる部分は1階部分として市が担い、その上の2階部分で民間の事業者さんに事業を展開していただく方法です。先ほどお話ししたように、この施策の最終目標は、住民の皆さんの幸福度向上ですから、市が下支えをしながら育てていくことができればと思います。

経済と環境を親和させたまちづくりを目指して

また、来年度からはさらに5年くらいの先のことを見据えて、次世代の事業を起こしていきたいという考えもあります。社会の潮流に沿った施策をタイムリーに打っていくことが大事ではないでしょうか。

当市では、テクノロジーを活用しながら環境にも経済にも効果のある総合的なまちづくり「INAスーパーエコポリス」構想を政策に掲げ、推進しています。今後もKDDIの資質を生かし、様々な提案をいただければ、コラボレーションができるのではないかと思っています。

注1) 地方版IoT推進ラボ: 経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構 (IPA) による、地域におけるIoTプロジェクトの創出を支援する取り組み。

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インタビュイー

長野県伊那市 企画部長
飯島 智さま

使用した機体
PD6B-Type3